乙郎さん

ローリングの乙郎さんのレビュー・感想・評価

ローリング(2015年製作の映画)
4.5
 最近の映画で東京がロケ地に選ばれない事情には、撮影許可がほとんど降りないことがあるそうだ。かくて今の日本映画には地方や郊外を舞台にした作品が増えた。そして、外部的な抑制が時にあるジャンルを特徴づける。田舎や郊外の空気感を描くことがある種の日本映画の特徴となる。それがここ最近の潮流だった。
『ローリング』でろくでなしの元教師を怪演する川瀬陽太はもともとはピンク映画の常連であり、伊藤猛と並んで欠かせない存在だった。伊藤猛は数年前に逝去してしまったが、まるで彼の分も取り返すかのように、彼はかつての作家性発揮の場としてあったピンク映画の空気を2015年の水戸市で蘇らせていた。
 そして、ピンク映画の流れの中にある本作を観て改めて感じたのが、もともとピンク映画ってフィルムノワールの影響を受けているんだよなということ。ノワールにありがちな舞台立てこそ、都会から郊外に映されているが、ある種の閉塞は共通している。終盤に登場する発電機と延長コードのギャグはギャグに思えないほど物悲しい。
 クラブ、有名人になった地元の人間など、外部への憧れを象徴するものが現れ、次第に「教え子/教師」「田舎/都会」「取る者/取られる者」の関係性が逆転していく。それらが止揚する場所があの空き地にいた先生なのかもしれない。
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