真田ピロシキ

おろちの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

おろち(2008年製作の映画)
4.5
楳図かずお先生の最高傑作だと思っている不老不死の少女が見守る美しくも汚い人間模様を描いた漫画から姉妹に関する2エピソードを合わせて再構成した映画。最初に本作を観た時はまだ原作を読んでいなかったのだが、その時ですら全体を貫く楳図テイストの表現に感心したもの。

原作の当該エピソードで描かれていたのは美から醜への恐れと姉妹間の確執。原作では全てに置いて完璧な姉と比較され続けたために強いコンプレックスを抱く妹が描かれドラマの筋になるのだが、映画では才能に恵まれているのは妹で姉は努力の人として逆転している。そのため原作を読んでいれば当初は妹の行動に対して疑問を抱くかもしれない。真実に対しても知るのはまだ後の話。そこまで憎む理由があるのかと。しかし姉が努力の人であり、それで母に近付いた女優として妹以上に大成し、その上で真実を知ったとなれば妹の感情には合点が行き、そのことを最後の姉への告白が証明する。全く持って身勝手な逆恨みでしかなく、そこには原作以上におぞましい人間性が露わになる。これは紛れもなくホラー。鶴田法男と高橋洋という日本ホラー映画の手練れがホラー漫画の巨匠作品を再構築しただけのことがある。

脚本の点では最高の仕事。美術も素晴らしい。役者陣については少し思うところがある。木村佳乃、昭和の大女優を演じるにはちょっと不足してるように感じてしまう。尤ももはや漠とした概念化している存在を不足なく演じれる女優はあまりいないだろうから責めるのは酷。おろち役の谷村美月。棒読みなのは人ならざる者を演出したのか単に演技力の問題なのか。前者だと思いたいが後者だと思う点がいくつか。政治家になる前の山本太郎が自分本位なくだらない男の役で出てるのは今となっては面白い。

漫画は映画のエピソード以外にも戦争中に父が人を食べたと知った親子の確執や押し込み強盗によって狂わされた家族の謎など心を打つものが多いので、本作くらいのクオリティで全話ドラマ化して欲しい。

最後にどうでもいいこと。昔、井の頭公園に行ったら楳図先生があのボーダーTシャツで普通に歩いてて驚いたw それと中越典子は学校の2年先輩らしいのですれ違ったことくらいはあるのかもしれない。