えいがうるふ

ヒメアノ〜ルのえいがうるふのレビュー・感想・評価

ヒメアノ〜ル(2016年製作の映画)
4.8
冒頭から人間的に好感が持てる人物が誰一人出てこなくて、観れば観るほど嫌悪感が募る。それでいて、絶妙にこちらの嫌なもの見たさをちょんちょん突いてくるもんだから、不快なのにどうにも目が離せない。そしてキモイキモイと言いつつも笑いながら見ていたアバンタイトルから一転、コワイコワイが止まらない無慈悲な展開となり、下り始めたジェットコースターにしがみつくように、息もつけないまま悪い予感の予想曲線を振り切るように一気に話は転がっていく。

ストーリー中盤以降は冷酷で陰惨なゴア描写もがんがん出てくるが、血の量が抑えられた描写のせいか絵的には吐き気を催すほどの強烈さはない(いやあるか?私がこのところ韓国ノワールやホラー系作品観すぎて免疫付いてるだけかも・・)。それでも畳み掛けるように続くシーンの心理的なえぐり具合は半端なく、終盤に向かって観る者の気持ちを容赦なく叩き落としていく。

だがしかし、それだけでは終わらないのが吉田作品。その点でこの作品は期待を裏切らなかった。
心の闇のはるか深淵まで引きずり下ろした挙げ句、壊れてしまった人間の心の奥底に残るささやかな幸せな時間の残像、その思いがけず穏やかな情景にぐわんと頬を張られる。
途端にそれまで目の前の人間に抱いていた感情の整理がつかなくなり、制御不能の涙があふれ出る。いいかげん覚悟してたのにまたやられた・・。

私がこれまで観た監督の作品はいずれも、人が生きることの痛々しさ、情けなさ、キモさ汚さ残酷さ、さらには壊れてしまった人間の恐ろしさと滑稽さとを散々シビアに見せつけた挙げ句、ギリギリのところで彼らのその漆黒の闇のような心の奥底で消えかけた熾火のようにひっそり燃え続ける美しいものに光を当てて見せるものだった。そうして、完全に人の道を踏み外し外道に堕ちた獣に思えた者もまた、もともとは自分たちと同じように愛に飢えた弱い生き物だったことに気付かされ、その存在を決して全否定出来なくなるのだ。
観る度にもれなくげっそり疲れるが、私はそんな吉田監督の作品を愛してやまない。

ちなみに原作は読んでないのだが、当然ながらかなり気になる。映画化に際しどれほど吉田色の強い脚本になったのだろうか・・?

なおキャスティングも素晴らしく役者陣の演技は皆とんでもない。特にこの作品で初めて役者としてその力量を認識した森田剛の熱演は凄まじい。彼に限らず、この監督の作品を観ているとそれぞれのキャストが恐ろしくはまり役に見え、しまいには「この人こんなに上手い役者だったっけ?まさか実際にこういう人なの??」とまで思わされるのが常なので、演者にとっては良くも悪くも恐ろしい監督だと思う。