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セルフレス/覚醒した記憶のしゃにむのレビュー・感想・評価

セルフレス/覚醒した記憶(2015年製作の映画)
1.9
「ワシが若返っても息子はシワだらけ」

↓あらすじ
余命数ヶ月の大富豪が命が惜しくなり「肉体脱皮」ビジネスを提供する研究集団に依頼をし新たな肉体を手に入れる。若返りを喜ぶ男だったが、見知らぬ家族の記憶がフラッシュバック、調べてみると全て実在、肉体の主の生前の記憶だと知る。肉体を提供した男の家族に愛着が湧始めた頃、研究集団が提供者の家族の存在を消去しようとすることを知り罪悪感から家族を守ろうとするのだが…

・概要
ギニュー隊長の知られざる過去にフォーカスしたスピンオフ作品では無く、不老不死ビジネスが実現したら…という空想を現実的に描いたSF作品と言うべきであろうか。CMの様子から「爺さんが肉体交換で若返って覚醒してスマートに暴れ回るアクション超大作‼︎」なんて先入観を持って鑑賞すると痛い目を見るだろう(ナニを隠そう自分もそのうちの一人である穴兄弟)アクションシーンはちらほら見られるが「覚醒」という程まで超人化するわけでは無い。せいぜい特殊訓練を受けた兵士くらいの強さである。今作の唯一食える身は「自分が生き延びる為に他人の人生を犠牲にするか(していいのか)、又は自分の自我を消滅させて犠牲者に元の人生を歩んでもらうか」究極の選択に苦悩するところ。ヒューマンドラマの雰囲気漂うSF作品という感じなので派手なアクションを期待して鑑賞しない事に留意されたし。尻切れトンボな終わり方に血管が破裂不可避なので輸血の用意をお忘れないように(1000ℓは輸血しました)

・不老不死ビジネス
今作は「不老不死」が深く関わってくる。既視感が半端じゃ無い方法だが、要は死にかけの肉体から精神を新しい健全な肉体に移し替えるのが今作の「不老不死」だ。この作業を何百回何千回も繰り返せば理論上は不老不死は可能になる。神もなし得ない発明の生みの親は「偉人を後世に残す研究」などと信奉するマッドサイエンティストである。今作は主人公以外にも「肉体交換」を行なった者が登場するが、たいてい成功者。不老不死ビジネスについて深く描かれていないが、このサービスを利用する者は金持ち或いは何かしら社会に大きく貢献した成功者だと思う。対して金もなければ社会の役立たない(定義が難しいところだが)凡人は恐ろしいことに成功者の為の肉体の提供者(ドナー)になるしかない。実際資産家の主人公に肉体を提供した男は娘の深刻な病の莫大な治療費用を払う為に自分の肉体を売り保険金を治療費に当てていた。やるせない悲惨な境遇である。何と残酷な貧困ビジネス哉、自分はこれに何かしら風刺のようなものを感じた。「医学の進歩には犠牲がつきもの」という台詞が出てくるが、科学が行き過ぎると貧富の差が命の価値の差を生み出すのかもしれない。貧しい生活に困り果てて仕方無しに肉体を提供する者が存在する一方で、豊かな生活に飽き飽きしながらも命に貪欲な金持ちが存在する、何だか空恐ろしい未来予想図哉。本作は不老不死がテーマのディストピア作品とも受け取れる。アクション目当てよりそんな風に観ると興味深い。

・セリフレス
もはや何も語るまい…セリフレス…そんな結論にぶつかり稽古を始めた原因は何とも釈然としないの主人公の爺様。この男は人生の成功者で「小切手で解決出来ないものはない」が彼のスローガン。当然ながら男は子供に毛嫌いされる。なるほど強欲で冷徹な人物なのだなと冒頭で了解したところで男は死にかけの肉体からの脱皮を試みる。新しい肉体は関節痛にも老眼にも無縁で若さ溢れている。若返りを喜び、夜遊び火遊びに耽る(半世紀ぶりに息子が勃ち上がった) 第2の人生をエンジョイしている時に肉体の提供者の記憶がフラッシュバックして、その家族と肉体提供裏の真実を知って愕然とする…それで研究集団が肉体提供者の家族を消去しようとするのを阻止しようとする、という筋書きなのだが、個人的に男のキャラが違う気がする。「小切手で解決出来ないものはない」等と本気で信じている非情な奴が急に人情に目覚めて見ず知らずの家族を救おうとするだろうか、死にたくないから、生き延びたいから自分の金で買った体を素直に手離そう(しかも手離すということは死を意味する)と一瞬でも考えたりするだろうか、と疑問がつきまとう。いざ現実を目の当たりにすると一人間としてそう感じずにはいられないのかもしれないが、男が人間らしい暖かさを取り戻す改心する描写が薄味だったので個人的に腑に落ちなかった。肉体提供者の奥さんにしてもそう。中身が別人の男をすんなり受け入れられるものだろうか(もしも旦那の中身がモナリザに起立する変態殺人鬼だったらどうすんのさ) 感情移入がままならず釈然としないまま盛り上がりに欠けるラストにセリフレス(絶句) 畢竟、不老不死を会得するにはギニュー特選隊に入隊するのが一番だと2時間かけて理解し、ブルマを履いて決めポーズの修行に励む次第である。
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