真田ピロシキ

弁護人の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

弁護人(2013年製作の映画)
4.5
今月末に釜山へ一泊二日で行きます。その気持ちを高めようと釜山舞台の映画を選んだだけだったんです。1980年代初頭の韓国で国家による冤罪という時点でどういう話なのかは予想してたんですが重さを甘く見ていた。序盤がTVドラマのような色合いでコミカルだっただけに落差が激しい。

この明るさは高卒のイロモノ弁護士と見られながらもご立派なエリート弁護士がやらない事をやって社会的成功を収めた主人公ソンに見える世界として正しい。独裁政権下と言っても現実は人の苦しみを糧にする悪の大魔王が支配しているのではないので上手く立ち回りさえすれば安穏に生きていける。おかしな事があっても知らないふりを、信じなければ差し障りがない。わざわざ権力という岩に卵としてぶつかりたい人は少ない。だがソンは卵にならざるを得なかった。世話になった人の理不尽を見て見ぬ振り出来るほど賢しくなかった。その時広がる世界は重く暗い。

大学に行っておきながらデモなんかに現を抜かす怠け者め。と学生を批判していたソンの姿は『タクシー運転手』で同じくソン・ガンホが演じた主人公と重なって見える。権力の茶番・横暴や沈黙するメディア。こうしたものが韓国では恥ずべき過去として描かれているのだがニッポンはどうでしょうか。過去?いいえ、これは未来です。30年後に振り返った時に平成と令和は忌まわしい時代だったと言える余力が果たして残っているだろうか。義憤すら茶化して憚らない連中が幅を利かす日本には失望しかない。ソンに卵を投げつけた愛国者。あれがオマエラですよ。

徒労にしかならない気はしてるけれど自分に刻み込むためにも言い続けたいと思う。怒りの火薬を湿らせず今を過ごすためだけに盲目にはならない。想像力を萎ませないことをね。