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神のゆらぎのpanpieのレビュー・感想・評価

神のゆらぎ(2014年製作の映画)
4.2
これはとても考えさせられるテーマで私の好きなタイプの映画でした。
ドラン目当てで見た事は隠す由もありませんがそれ以上に宗教というテーマとある事故に繋がっている人間模様が入り組んでいて素晴らしかった。
ただの宗教だけがテーマではない所も良かったです。


冒頭エティエンヌ(ドラン)が聖書を読みあげている。
たくさんの人の前で。
人々も皆聖書を広げる。
激しく咳込むエティエンヌ。

別の日。
めまいがしてハシゴから落ちたという。
背中も痛いと婚約者の看護士ジュリーに話す。
病院へ行けと母親に言われている。
皆に隠しているがエティエンヌは白血病だった。
分かっているなら早く治療しないと!
何故治療の為に病院へ行く事を渋っているの?

場面変わって空港の入国審査。
一人の男性がベネズエラから3年ぶりに帰国する。
審査を通ってすぐトイレへ直行する。
具合が悪そうだ。
と思ったらおもむろに右手の袖を捲り上げ便器の中へ!
え⁉︎何してるの?

また違う男が出てきてカジノのシーン。
カジノのあるホテルに泊まっている?
カジノのバーでバーテンダーとの会話からその男は結婚14年で毎年妻とキューバに行っている、今夜発つと話す。

次はバーテンダーの老齢の男の話。
ホテルのクローク係の同じく老齢の女とどうやら不倫している様だ。
どう見ても60代以上だ。
流石フランス人!
車の中で休憩中にセックス!
幾つになっても情熱的だ。
ここはどこという表記ははなかった気がするがフランス語を話してるし雪も積もっているしこれはカナダ映画なのでドランもいるしここはケベック?

ジュリーは医師からエティエンヌが白血病で輸血をすぐにすれば良くなる可能性があると説得されているが拒む。
〝何を待っている?
奇跡か?〟
医師の問いかけにも助かる可能性は関係ないと一蹴するジュリー。
そうか、輸血を拒むという事はエティエンヌもジュリーもエホバの証人なんだ!
戦慄が走った。

エホバの証人を調べてみた。
1870年設立。
意外と歴史がある。
全世界で約820万人信者がいて最も多いアメリカで120万人、日本には21万人の信者がいる。
キリスト教の基本理念を否定しハルマゲドンを信じその後楽園に入れると信じている。
イエスは神の子であり神ではない。
戦争に参加せず兵役につかない。(良心的兵役拒否)
ナチスはエホバの証人も投獄して死刑にしたらしいが現在では基本的人権として認知され推奨されているそうだ。
国旗敬礼、国家斉唱は偶像崇拝にあたる。
そして最も有名なのは輸血の拒否である。
教義を破った者は楽園には入れないと信じ違反があった場合排斥(除名)される事を最も恐れている。
劇中でもジュリーの友達メラニーにバスの中で会っても無視していた。
8ヶ月の赤ちゃんを抱っこしてジュリーに話しかけていた。
ジュリーの家にいた信者の男性にメラニーの話をしていたのでおそらくメラニーの父親と思われ教義に違反したメラニーは除名処分を受けて両親共会えずにいるのだろう。
では何故こんな理不尽とも思われる宗教を信じるのか。

エティエンヌが白血病に苦しむ姿を知っているジュリーは職場である病院に飛行機事故の生き残りの身元不明男性が自分と同じ血液型O(-)である事を知る。
エティエンヌもこの男性も輸血をすれば助かるのだ!
ジュリーの心は揺れていく。
珍しく邦題も悪くないかもしれない。

ある日同僚と訪問布教をした時の事。
教義を説明しようとした時男性は衝撃的な言葉を投げかける。
〝飛行機が落ちるのは全能の神が存在しないからだ。〟
ジュリーの頬に一粒の涙がつたう。
その男性こそホテルのクローク係の女性の夫だったのだ!
妻は不倫相手を選び落ちた飛行機に乗っていて助からなかったのだ。
夫からそんな言葉が出てくるのは当たり前だが命を救う事は教義に反するが輸血をして助けるべきかそれともそれを放棄して信仰を続けるべきかジュリーは良心の呵責に悩む。

トイレで飲み込んだ麻薬を下剤を飲んで出している男は空港で職員の兄と鉢合わせしているが挨拶もしないまま二人は別れている。
どうやら兄の娘の姪と間違いがあったらしい!(衝撃!そりゃ無視するわ!)
麻薬の密輸で得た金で柔道でオリンピックを目指す姪に渡しに行くが後悔している男に対し姪はまだ好きならしく着替えるから待っていてとシャワーに向かうが男は金を置いてその場を立ち去る。
空港職員の兄の計らいで飛行機に搭乗しない客の航空券を使ってもう2度と会いに来るなと言って搭乗手続きをする。

搭乗しない客はカジノで大金を使い果たした男だった。
不倫していたバーテンダーに結婚14年の妻とキューバへ行くと話していたあの男だ。
その男の妻は結婚生活に疲れアル中になり空港で男と飛行機に乗るかと思いきや愛してないから別れると別れを切り出し15年目のキューバ旅行は実現しないこととなる。
妻役に「Mommy」のアンヌ・ドルヴァルが出ている。
ケバくもなく今作では控えめで出番が多くないにも関わらず寂しいアル中の妻を見事に演じていた。

こうしてキューバ行きの飛行機に登場人物達は乗る。
飛行機事故後の現在とそれに搭乗した人物達の生き様を時間軸を操って交互に観せていく。
繋がった!
時系列ではなく見事な編集だ!
素晴らしかった。

「11ミニッツ」を思い出す。
あれは時系列通りに描かれていたっけ。
でも今作ぐらいの設定を観せても良かったかな。

その後生き残りの男が危篤状態になる。
緊急手術を行う事になり血液が必要という事になってジュリーは決断を迫られる。


予告篇で「グザヴィエ・ドランが惚れた交差するサスペンス」とあったが私も惚れました。笑
ストーリーが素晴らしい。
映像も寒々しく美しくて私的ツボだった。
無宗教だが案外私は宗教ものは好きらしい。笑
エホバの証人の信者が時々玄関のベルを鳴らす。
今は鍵を開けなくてもモニターに映るので実際に会って話す事なくお断りするのだが信者の方に聞いてみたい。
〝あなたの大切な人が輸血を必要としていてそれをしないと死ぬ場合あなたはどうしますか?〟と。
〝輸血は教義に反するので例え死んだとしてもしません〟と言う言葉は聞きたくないので実際にドアを開けて聞くことはしないが。
〝飛行機が落ちるのは全能の神が存在しないからだ〟
これを聞いた信者はなんと答えるのだろう。
私は信者ではないが劇中のこの言葉は刺さった。
とても考えさせられる作品に出会えて良かった。
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