ぐるぐるシュルツ

神のゆらぎのぐるぐるシュルツのレビュー・感想・評価

神のゆらぎ(2014年製作の映画)
4.1
奇跡とは何か。
神が起こすものではない、という証明。

神の選択のゆらぎと
神の存在のゆらぎ。

〜〜〜

グザヴィエドラン監督が出演している作品。タイトル通り、命と信仰を巡りながら一つの航空機事故に導かれていく人々を描く。そして彼らの運命は奇妙に、しかし確実に影響し合っていく。
テーマはかなり硬質。
恐縮ながら僕はエホバの証人に対してあまり知識はない。また、この感想が特定の宗派や宗教自体を否定する意味合いはまったくないです。

〜〜〜

だいぶ冒頭で時間軸や結末が、ある程度固定されるという設定が面白い。
誰が死ぬんだろうかと、見ているうちに、登場人物のことを無意識に「ジャッジ(裁き)」しようとする自分に気づいて、我ながらハッとする。
この人は善い人だから生き残ってほしいなぁ。この人は善い人だけど悪いことをしてしまっているから生き残らないだろうなぁ。
なんて無神経なんだと反省するとともに、そういう人は少なくないかもなとも思います。勧善懲悪の弊害か。

そして、見終わった余韻の中で、タイトルについて改めて考えてみる。(以下、結末に触れる箇所あり)

MIRACULUM。ラテン語で奇跡。
果たして何が奇跡だったんだろう。
そして、それは神が起こしたものか?

一見、この奇跡が意味するのはとは、『全員死亡の航空機墜落の中、一人の生存者がいた』という事実のように思う。それこそ邦題通り、それは『神の(選択の)ゆらぎ』のようです。
でもその生存者の命は、結果的には、神を信じない道を選んだ(=神の(存在の)ゆらぎ)ジュリーの判断が守ったもの。
つまり、ヒトが守ったもの。

ではなぜ、ジュリーはその判断をしたのだろう。
彼女の胸にあったのは、白血病の中で神を信じる自分のフィアンセと、妻に出ていかれた挙句先立たれて神を信じれなくなった一人の老人の言葉があったから。

だとしたら、老人は何故そう言ったのか。
長年連れ添った妻がカジノのバーテンダーと不倫をして出て行ってしまったから。
つまり、そこには1組の男女の純粋な愛、宗教的には不純な罪である愛が原因にあったといえるかもしれない。

それなら、
不倫という罪によって
神が二人の命を奪ったのか。

実は違う。
彼らは直前まで死なない運命の瀬戸際にいた。でも、空港で会った男に背中を押されてしまった。そっと励まされてしまった。
一緒に逃げ出してくれた女への真っ直ぐな愛が、見知らぬ男の心を打ったから。ヒトがもつ優しい眼差しが、皮肉にもその命を奪ったのである。
つまりヒトが奪ったもの。

奇しくも、不純な過ちを犯していたのは、
背中を押した方の男自身もそうであった。
でも彼は死なずに一命を取り留める。

神が許したのか?

いや違う。
許したのは、紛れもなくその兄と姪たちである。
ヒトがヒトを許して、その命を救った物語です。

〜〜〜

登場人物の一つの判断が、別の人物に影響を与えていく。久々に頭を悩ませながら、果たして何が奇跡だったのか、考えさせられる。
キリスト教が根付く欧米で、このテーマの作品ということで、相当な気合が必要なんだと画面越しに伝わってくるほどの丁寧な映画。
物語は残酷だけれど、人が人を愛する瞬間がきっちり描かれていて、その余韻は尾を引いていく。
「全能な神はいない」
この言葉の裏には祈りや哀しみの記憶が確かにある。文字通りの意味だけなんかじゃないね。
エンドロール、BGMのない沈黙が、きりきりと深く刺さった。