純

グランドフィナーレの純のレビュー・感想・評価

グランドフィナーレ(2015年製作の映画)
3.8
独特だけど複雑なのか単調なのかも判断しかねるストーリーに見事玉砕、そして超越した映像美と音楽センスに脱帽といった感じの2時間だった。難解だという噂だったので身構えて臨んだけど、始まって数分でどれだけのツワモノ映画か察したよね(笑)

まず設定と登場人物たちが濃い。かつての成功者たちが人生に絶望しながら、もしくは何かを探し求めながらバカンスをあるホテルで過ごす。超有名な音楽家、俳優、映画監督、あと元プロサッカー選手(?)(左利きなことを皆知ってるならテニス選手かとも思ったけど、でもあのシーンを考えるとサッカーかな?さっそく分からん笑)たちの織りなす人生の後半戦をユーモラスに時にはブラックに描いたザ・アートな作品。

わたしの中ではまさに後半戦が始まったところ、って印象だったから、邦題の『グランドフィナーレ』は正直ハズレだなあ。人生の前半戦のフィナーレと言うには遅すぎるし、そもそもグランドでもフィナーレでもないでしょう。ラストカット(映画監督が手で作った望遠鏡でこちらを見る)からも、始まりを予感させる感じだと思うんだよね。作品の途中に、若者から見た人生と老いた者たちから見る人生の違いを展望所で話すシーンがあるけど、あれと掛けてて、今度は過去じゃなくて未来を覗いてるのかな、と思った。夢や方向性、愛する人を失って、過去の栄光だけが1人歩きするそれぞれ孤独な老人たちが、自分たちが失っていないyouth(若さ)の萌芽を見つける様が、とにかく美しすぎるスーパーショットの数々で1本の映画になってました。全編を通して視覚と聴覚に訴えてくる芸術センスは本当にすごい。特に静と動のコントラストが圧巻!1シーンの尺の長さだったり、場面の明るさだったり、ストレートに音(または音楽)の有無だったりが不思議な雰囲気と違和感を作り出している。音楽も重厚な曲と安っぽい曲が良い感じにミックスされてて良い感じ。(語彙力がない)

ソレンティーノ監督の並外れた芸術センスは誰にも真似できないと思うけど、個人的には様々な作品の融合的作品なようにも感じた。これはパクってるって批判してるんじゃなくて、他の人と似た手法や雰囲気が組み合わさって彼独特の世界観になってると思う、っていうわたし1個人の解釈で。例えば違うアングルや構成のシーンが断片的に続くあたりは『グランド・ブタペスト・ホテル』を、エロティックなシーンが静止画チックなところは『マイ・プライベート・アイダホ』を、少し皮肉ってユーモラスかつインテリ風を吹かせる感じのセリフ回しはウディ・アレンの作風を連想させた。こんだけ詰め込めばそりゃ疲れるわ!って観た人は思うよね(笑)わたしも疲れた(笑)

こんな色々書いてるけど、あんぽんたんなわたしは多分ソレンティーノ監督が伝えたかったことの半分も理解できてないと思う。でも、それでもいいかな。別に諦めではなくて、映画とか本とか絵とかってそんな簡単に理解できるはずないし、100%理解なんて不可能なんだしね。はっきりしたメッセージを読み取れたらそりゃ拍手だし、「なんかすごい」「よく分かんなかったけど圧倒された」とかいう感覚しか掴めなくても、掴めたんならそれは立派なその作品との「触れ合い」だろうと思う。

あ、触れ合いで思い出したけど名言がたくさんあってそれも良かった。日本語訳も良いけど実際の英語も聴き取りやすいのでおすすめ。「どうして人は触れ合うことを恐れるのか」「”美しい”と”醜い”の間には”可愛い”がある」「真実なんてどうでもいい」とか、ハッとするような響くようなセリフがちらほらあった。

ぎりぎりハタチのわたしにはまだ分からない部分もたくさんでしたが、多感な(?)時期と季節にこんな綺麗な作品に出会えて、しかも大画面でたっぷりその芸術を満喫できて大変満足できる1本でした。
純