小川勝広

サウルの息子の小川勝広のレビュー・感想・評価

サウルの息子(2015年製作の映画)
4.5
一体、どれだけ試行錯誤をして、テストを何回繰り返して、本番に臨んだんだろうか?
監督やキャスト、スタッフは、何故、何の為に、誰に向かって、という意志が明確に統一されていないと不可能な仕事である。
推定200万人から400万人の人々が約5年間(約1900日)で・・・という凄惨な事実を観客にリアルに伝える為に編み出したであろう(予算の制約から、抽象化せざる得なかった事も推察されるし、私も実際のアウシュビッツも見学したが事実とは大きく違うがあまり気にならない)抽象と具体を混在させる語り方。
主人公の芝居自体はセリフも最少限、抽象度を下げる。凄惨な現実はピントをボカすなど、抽象度を上げる。この相反する水と油のような状況をカットを割らずにアジャストさせるには、ここしかない!という位置にカメラを置く。
効果音も含めた[サウルの息子話法]や[Son's Eye]として語り継がれても良い偉業。単なるP.O.V.や二人称、観客目線、神の声、実録タッチ、体験ゲーム風とかで括って風化させてはいけない、この史実を忠実に伝える為のこれしかない!語り方だった。