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さらば冬のかもめの3104のレビュー・感想・評価

さらば冬のかもめ(1973年製作の映画)
3.8
ハル・アシュビーが送るアメリカン・ニュー・シネマ。
コメディチックな部分は多いものの、全体に「哀」がきっちりと含まれている。
ロードムービー仕立てだが今ではこういう空気感は出せないだろうし、「無理な起伏」がない筋立てでは受けないのだろうなと思ってしまう。(DVDの)ザラついた画質も物語の雰囲気を引き立てている。

海軍の下士官、バダスキーとマルホールに命じられたのは海軍刑務所への窃盗犯の護送。その窃盗犯、新兵メドウスが犯したのは募金箱からのわずか40ドルの窃盗(のちに未遂だとわかる)。しかし運悪くその募金箱は海軍司令官夫人が設置したものだった事から、メドウスは懲役8年もの刑をくらうことに・・。

楽な任務だしとっとと終わらせようと思っていたバダスキーとマルホールだが、メドウスの理不尽な境遇と彼の自分の現状を理解していない様に同情のような感情を抱き、やめときゃいいのに彼にさまざまな「体験」をさせようと奔走する。
酒をたらふく飲ませ、海兵隊員と喧嘩を繰り広げ、18歳から8年間という青春期を棒に振るメドウスに“筆おろし”をさせてやったり・・そのうち彼ら3人の間に奇妙な友情のようなものが芽生えてゆく。

まっすぐ行けば2日で終わる護送の旅も、あっちへ寄ったりこっちで遊んだりの珍道中。しかしどれだけゆっくり進んでも旅の終わり、すなわち刑務所は近づいてくる。楽しい事を教えてもその後に待っているのは8年の地獄。ならばそんな事を教えない方がよかったのかという葛藤を抱くバダスキーとマルホール。

ブラボー、ヤンキー、ブラボー、ヤンキー。
悩みながらもバダスキーらが見せた優しさの旅も、結局はメドウスの脱走未遂により呆気なく終わりを告げる。
最後の挨拶も一瞥もなく、背を向けたまままっすぐ檻の向こうに連れられてゆくメドウズと、それをただ見送るしかない2人の姿が哀しくそして情けない。

新兵メドウス役にランディ・クエイド。彼にいろいろな(ときに余計な)物事を教えるバダスキー役にジャック・ニコルソン。マルホールとのやり取りや、喜怒哀楽を巧みに表したさまざまな表情がセリフ以上に雄弁や役割を果たしていた。

なぜか裸なジャック・ニコルソンが大写しのジャケットと、どこから「かもめ」が出てきたのかわからない、しかし詩情漂う妙な邦題のせいで損をしているむきもあるかもしれないが、刺さる人にはきっちりと刺さる作品ではないかと思う。
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