ヨシイコウタ

オーバー・フェンスのヨシイコウタのレビュー・感想・評価

オーバー・フェンス(2016年製作の映画)
3.8
多少身構えていたんですが、予想していたよりも見やすかったです。同じ印象を持つ方もけっこういるんじゃないかなと思います。

あるポイントまでのふたりの恋愛模様が想像していたのよりもずっとたどたどしく、そしてたまらなく愛おしく描かれていたことが、入り込みやすくなるきっかけだったのかもしれないです。これにはちょっと驚きましたが、個人的にはけっこう好きでした。

鳥の求愛は極めて動物的で、単純明快で、同時に非常にドラマティック。そして何よりも、鳥は自由の象徴です。聡が鳥に魅了されているのも、彼女を見ているうちになんとなく伝わってくる。人からは「頭がおかしい」と言われ自分でもそう言うけれど、聡はただ、その傷だらけの翼の広げ方を知らないだけ。表層的な部分ではある意味突出して見えるけど、実は僕らも彼女と同じようなものだったりするのかもしれない。

それぞれが別々の過去と現在を持ち、独自の哲学を持って姿の見えない未来に対峙する(あるいはせざるを得ない)日々を送っています。人同士を比べずにはいられない人たちが社会にははびこっていますが、彼らのしたがるカテゴライズに意味はないのだと感じました。劇中「お前はお前なんだ」というセリフがありましたが、それを集約したセリフのように思いました。

蒼井優の、ほとんどバランスが崩れかかった感情をむきだしにする演技には、否応なしにスクリーンのなかに引きずりこまれましたが、個人的にオダギリジョーの演技はもう一押し欲しかったかなあという感じ。彼の胸のうちにある感情の渦が生み出す人間的な深みみたいなものがもうすこし表現されていたらより良かったんじゃないかと思います。

個人的に、劇中で一番ぶっ壊れてるのは白岩の元妻なんじゃないかなと思いました。何かが決定的に欠落してしまっているような、そんな感じがかなり不気味でした。ある意味見所かもしれないです。

闇が垣間見えるシーンもあるけれど、根底にはポジティブなメッセージがあるような気がします。