キルスティン

タンジェリンのキルスティンのレビュー・感想・評価

タンジェリン(2015年製作の映画)
5.0
タンジェリン…北米産のミカンの名前。色名にはないが、マンダリンオレンジによく似たミカンで、同じ色を指す。
冒頭から終盤陽が落ちるまで、常に西陽に照らされ眩しいオレンジトーンの画。

28日ぶりにムショから出てきたシンディと歌手志望のアレクサンドラ。共にトランスジェンダーで娼婦。カフェにて、二人は小さなドーナツ一個をひもじいが仲良くシェアしながら久しぶりの再会を喜びハッピーに会話を始めるも束の間、アレクサンドラの早とちりでシンディの恋人チェスターがシンディがムショにいる間白人女性と浮気をしていたことを口にしてしまう。激昂したシンディは浮気相手をとっちめようと感情のままに店を出る。浮気相手探しに躍起になるシンディとそれを宥めようと必死なアレクサンドラ。ひたすら歩く歩く二人。100メートル進む毎にトランスジェンダー娼婦仲間がいて即興的にファンキーなやりとりが始まる。そんな実在する有名な赤線街であるこの街は、あらゆる立場、宗教、人種の人々の暮らす、アメリカという国の多様さが見える。

予備知識
〈アメリカン・インディ界の気鋭ショーン・ベイカー監督が、アナモレンズを装着した3台のスマートフォンだけで撮影したコメディドラマ。トランスジェンダーの女性二人が抱える厳しい現実や切ない友情、恋愛を映し出す。ショーン・ベイカーが企画のリサーチ中にロサンゼルスの裏通りで出会ったトランスジェンダーの女性、キタナ・キキ・ロドリゲスとマイヤ・テイラーを役者として起用。実生活でも親友同士の二人の経験を基に、『チワワは見ていた ポルノ女優と未亡人の秘密』でもタッグを組んだクリス・バーゴッチと共に脚本を書き上げた。〉(引用)

今作、主演の2人を始めとしほとんどの役を現地の素人が演じているとのこと。信じられません。皆、とても自然でむしろベテラン感すらある。テーマが彼ら彼女らの単なる日常であったとしても、カメラの前で違和感のない自然な日常を再現することはやはり至難の技だと思う。演者の才能か監督の力か。
今作は色彩が特徴的。監督は「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」のショーン・ベイカー監督。フロリダは未見ですが、フロリダのジャケからもベイカー監督の"色"へのこだわりがよく分かります。そして、もうひとつベイカー監督作品から感じ取れるものは、常に差別、偏見、貧困、あらゆるマイノリティ、弱者に寄り添った視点であること。日本でいうと是枝裕和監督的。
しかし、作品自体全く暗くない。明るい!登場人物みな生き生きとしている。観終わった後の爽快感、穏やかさが不思議。
今作、色以外に印象的だったのが音(曲)の使い方。ベイカー監督はインタビューでこのように語っています。
〈当時僕はVineにハマっていたんだけど、そこで見つけたトラップ系の音楽が編集している映像にとにかくピッタリと合ったんだ。そこからリサーチをはじめて、実際にそのアーティストを探し出し、楽曲の使用権を得ることができた。雰囲気もパーフェクトだったし、カット割り的にもすごく合っていた。そこから、トラップミュージックを中心に、いわゆるミュージックビデオのようなビートに合わせたカット割りを意識した編集の仕方をしていったんだ。中盤でペースがゆっくりになるシーンでは、クラシックを使った。もちろん高いお金は払えないから、パブリックドメインのベートーヴェンの演奏をしている楽曲を見つけて合わせてみたら、それもうまい具合に映像にマッチしたんだ。そこからは、とにかくトラップでもクラシックでもエレクトロでもジャズでも、何でもそのシーンにハマって、リアリティにきちんと即せばいいという考えになったんだ。インパクトを残したかった最後のシーンだけは、操作性のあるものを排除して、シンディとアレクサンドラのキャラクターとリアリティーだけで描きたかったから、音楽も一切使わなかった。この作品を構成する大事な要素でもある音楽の決断を下したのも編集に入ってから2〜3週間後に見えてきたことだったから、編集は本当に大事な作業だね。〉

前半から後半直前まで、ガンガン攻めの音楽と時に悲劇的なクラシックが映像と同時に隣でDJが回しているかのようなアレンジとミックス感で流れる。これすごくカッコいいです。
しかし、後半になると極端に音は減り、静かに流れるのはギャラクシー感のあるボ〜ンとした音。
タンジェリン色に染まった派手な前編に対し、後編ダークな夜、登場人物たちが個々に自身と向き合うシーン。行き場のない心理は宇宙空間をさ迷う魂のよう。
ラストはまさかの無音で絞めてます。
ベイカー監督のセンスの凄さを感じます。

出演のキタナとマイヤ以外に主要人物として、妻子あるもののチ◯コのあるトランスジェンダーとでしかイケないっていう性癖の移民タクシードライバーがいたり(憎めないいいやつなんだよ😳)、シンディの恋人(ジェームズ・ランソン)はジェイク・ジレンホールをグッとハンサムにした顔になっててそれに笑えるし、シンディが浮気相手探しで売春部屋に突撃したシーンではガリガリのおっさんのチ◯コもろ見えだし、タクシードライバーのラズミックが移動式洗車機に車を入れ助手席に座るアレクサンドラのナニをくわえながらの自分のもシコシコし、事の始末をするシーン、何このセンス✨全編通して可笑しくも憎めないキャラやセンス光るシーンのオンパレード!
あっという間の88分!
良い映画だ!!
ベイカー監督作品は初見でしたので、過去作、「フロリダ…」も観たいと思います。
ベイカー監督はすごく優しい人だと思う、絶対。
「タンジェリン」オススメです‼️
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