キルスティン

ブリーダーのキルスティンのレビュー・感想・評価

ブリーダー(1999年製作の映画)
4.6
マッツンことマッツ・ミケルセン誕生祭シリーズ。

「ブリーダー」
ニコラス・ウィンディング・レフン監督の『プッシャー』に続く2作目の作品。

出だしがかなりカッチョいい👟👟👟
プロレスラー入場の如く5人の主要キャラに合わせたテーマ曲をバックに人物の闊歩する足元が映り変わる。
オープニングから私的ベストムービー「タンジェリン」に似た雰囲気を感じ、よしコレはイケるやつかもわからん、と嬉しくなる。

望んではいなかった妻ルイーズの妊娠に動揺する中、妻の兄ルイ(妹想いが過ぎた残念な兄)と出向いた店で人が打たれ人がリンチされる現場を目の当たりにし、感情が異常化してくるレオ役を、デンマークで最も大成した俳優の1人キム・ボドゥニアが演じる。
一番好きな映画は「悪魔のいけにえ」という映画オタクのレンタルビデオ屋店員で、デリカショップで働く気になる女性レア(多分セックスと性格は良さそうな顔面は残念な女性)をデートに誘い待ち合わせ場所まで行くも自分を待つレアを遠目から黙視し何故か引き返しすっぽかすという焦らしテク(本人はテクの意識はないが)が堪らないレニー役を北欧の至宝マッツ・ミケルセンが演じる。

俺たちの何気ない日常気だるいやり取りってカッコいいだろ??的あざとい映画は沢山あるが、今作は意図せずしてダサイものまでカッコよく思えてしまうという「タクシードライバー」的ニューシネマ感が漂う作品。

「オ?」「ア?」「ン?」「ナアイ!」(無いとか違うとかいう意味みたい。ルイがナアイ!を連発するシーンがあるのだけど、ここだけ日本語話してるみたいで笑った)だけで会話が成り立ってるんでナアイ!?って印象のデンマーク語での淡白なやり取りがとりあえずまずお洒落カッコいい。
レニーが働いている個人経営であろうレンタルビデオ屋は店主店員の趣味が押された豊富な品揃えでマニアには堪らない 。こんな環境で働けたらなんて幸せだろうと思う。経営的には大丈夫?という映画に出てくるのんびりなお店あるあるは竿竹屋観点を持って見逃そう。
2階にあるポルノコーナーの品揃えも半端ない。ゲイや腐った女子が喜ぶ作品も沢山ご用意されている。マジ通う、この店。
レオ、レニー、ルイ、ビデオ屋店主の4人は定期的に4人だけのビデオ鑑賞会を開いているのだが、何故か必ず何かの儀式のように全員正装をして集合し鑑賞する。観るものは専らバイオレンス系。その様子がなんとも滑稽且つイケてる。

映画開始早々にレオと妻ルイーズの間に不穏な空気を漂わせつつ、中盤、ルイーズのある行動にレオが思わず手を上げる。その瞬間、作品の赴きが一変する。びっくりするくらいに変わる。継続的な激しい暴力ではなく、一瞬の暴力なのだがその一瞬があまりにも衝撃的。それまで、登場人物たちの気だるい中年男のさま同様、気だるくのんびり鑑賞していた私だが、ルイのほんの一瞬の暴力により自身の魂が飛び中身が丸々変わってしまったような錯覚に落ちた。さっきまでの私はどこ行ったの???!!!このシーンの衝撃を最大限に生かす演出の持って行き方は上手い!としかいいようがない。この一瞬の衝撃はちょっと今までなかったかも。手を上げた直後レオがルイーズに取るとっさの行動はそれはそれでショックなものだ。感情のコントロールが利かなくなった根は真面目人間の心の闇が痛いほど伝わってきて辛い。

後半はレオと妹を傷付けやがってと憤慨するルイとの何倍返しのいたちごっこ。ルイからレオへの最後の仕返しは結構好き。バイオレンス描写が苦手ではあるが、実はあの手の仕返しが暴力より何より一番怖くて恐ろしいタイプだと思う。残念な兄ルイにしてはなかなか残酷極まりないスマートなやり方だった。

レオVSルイは最悪にして最高の結末を迎える。待ってました!のラスト。
レオVSルイの傍ら、レニーとレアの中年故にちょっと気持ちわるくも感じる焦れったいやり取りもなんかお洒落。
膨大なVHSに囲まれ働くレニーのシーンと、読書家であるレアが古書店にてこれまた衝撃的膨大な数の本に囲まれ愛読に耽るシーンが優しくリンクし、ただ事ではない事態に向かっている展開の中(そんなはずではなかった!って意味では「ファーゴ」的結末)、二人の存在は観客に穏やかな日常の存在も忘れさせない役割を果たしている。

"日常の切り取り"もそうなのだが、カメラワーク、編集・カット割りなどが「タンジェリン」に似ていて好きだった。
同時に色彩の感じや陽の当たり方も似たところがあるのだが、wikiによると、レフン監督は中間色が見えづらい色覚障害を持っており、色彩コントラストの強い独特な画面構成が特徴、とある。納得。

レフン監督作品は初見でしたが、「プッシャー」とか行ってみっかな。や、まずは「ドライヴ」か。ほな🚘行ってきま〜す!
キルスティン

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