スケ

ヴィジットのスケのネタバレレビュー・内容・結末

ヴィジット(2015年製作の映画)
2.8

このレビューはネタバレを含みます

昨日の「オキュラス 怨霊鏡」に続き、姉弟が災禍に遭うホラーものを。

これはホラーというより、わりと可愛らしい、ほっこりするお話ですよ。
したがってホラーカテゴリの売り方ですが、怖さは控えめ。といいうか後述する理由から、私にとってこの映画には怖いシーンというのは決して強がりでなくほとんどなかったです。

あらすじとしては、その昔駆け落ちして地元を出て以降、一度も実家に帰ってなかったママが、両親から15年ぶりに連絡をうけ、じじばばが孫の顔が見たいと言うので中学生の姉弟は生まれてから一度も会ったことのない、祖父母の田舎のおうちにお泊まりに行くことになったのだが、一緒に生活するうちに祖父母の奇行が目立ち始め…?というもの。

最初に抱いた感想は、「アリ・アスターがファックと言って唾棄しそうな作品だな…」ということと、「というかこれダメじゃね?」という2つ。

最初のアリアスターの話なんですが、彼はヘレディタリーについてのインタビューなどで、ホラーというジャンルにおいても「家族」というモノは美しく守るべき絆、恐怖とは対照的な安心できる場であり良きものとして描かれ続けている、それが不満である。というような旨のことを言っていたんですね。私はこの意見に至極共感し、ある意味救われたという気分にすらなったほどなんですが、これからネタバレするんですけどアリアスターがヴィジットを撮ったらこのおばあちゃんおじいちゃんは本物の祖父母だったということにしたでしょうね。そっちの方が怖くて嫌じゃないですか?そっちの方が逃げ場がないんですよ。あの2人とずっと付き合っていかなきゃならない方がしんどくないですか?リアルな恐怖ってそっちにあるんじゃないですか????
あとやっぱりママは2人のことを愛してて、ママと抱き合って大団円だね私たちって愛し合ってる家族だね!ってところとか。
そういう映画があっても当然いいんですけど、そういう映画ばっかりじゃない?というところに問題を感じています。

なのでこれは私の中ではホラー としての純度を求めた作品ではなくあくまでティーンの通過儀礼譚にちょい怖要素をまぶしてお届けした成長ストーリーと捉えています。

そんで、「これダメじゃね?」と思ったというのはどういうことかと言いますと、この作品の恐怖の対象ってつまるところ認知症や老化によって現れたさまざまな肉体の不調なんですよね。そしてその病や不調が、彼らの尊厳を損ない苦しめていることも描かれている。怖いとか思っていいんですかね…だってあなたも私も行く道ですよ。そりゃ若い若い13歳とか15歳の子たちにはビックリするし怖いとも思っちゃうかもしれませんけども…ホラー映画としてあの描写にあれだけ尺を割くには…。「それとこれとは別の問題だろ」と思いました。
「違うよ認知症じゃないよあの2人は逃げてきた精神病患者だよ」と言われるかもしれませんが、いや同じじゃね?と思います。認知症のひとも精神科に通うんですよ。というかだからって何が違うんですか?病院から逃げてきた病気の人の心身の不調ですよね、一緒じゃないですか?
目にしたレビューで、「あまり怖くなかった、なぜならうちの家には介護すべき老人が複数人いて、こんなの日常茶飯事なので、他の怖い要素を入れてくれればもっと怖がれたのにと思った」というのがあり、まさにこれに尽きるしこの映画、これ以上書くことないよな…とも思ってしまう。

ホラー作品においては恐怖の対象に創作者の差別心が現れる、という論を読んだことがあります。シャマランのドラマ「サーヴァント ターナー家の子守」を見た時にも思ったんですけど、シャマランって精神疾患を抱えている人に厳しいよな…と思います。「あっちに行っちゃったヒト」はシャマランにとっては絶対的な壁に隔てられた存在で、シャマラン自身がその壁を超えることはおろか、あっちとこっちを行き来するような状況に追い込まれることが起こり得るということなんか、考えもしないんだろうな〜、と、10年以上向精神薬を服用し、持病やおのれの精神の不調と付き合い続けてきた私としては少し冷たい気持ちになりました。
あと私潔癖症なんで、潔癖症を何か超えるべき思春期のイニシエーションネタとして使われるのもなんかな〜。と。「いつか克服すべき何か」みたいに思ってるんですね。
私としてはそうかな?と思いますけど。
そりゃ潔癖症じゃない方が一般社会では生きやすいかもしれませんけど、潔癖症である自分から逃げられない人もいて、そういう人間の存在も包含するような目線の作品もあるのにな〜とか思います。(例えば「進撃の巨人」のリヴァイ兵長とか良かったです。「ひ弱さ」の象徴だった潔癖症のヒーローがいてもいいんですね、って思いました。)
世が世なら潔癖症の方が生きのびやすいんですよ。
例えば現在の疫病禍の世界とかではね。

あとこれはどうでもいいし言ったら元も子もない話なんですけど殺人を犯して潜伏してる犯罪者が一番に警戒するのはカメラだと思うんですけど初っ端からよく撮らせてくれたなと思ってしまう。全部終わったら殺すつもりだったとしても、途中で自殺をして何もかも放り出して行くつもりだったとしても、ネット環境がある時代ですし… 。というかこれは老人ならではの、メディア漏洩に敏感じゃない世代の判断力ということなの?


そんなこんながありつつも、全体としてなんかあったかい気持ちになれるように作ってある映画だと思いますし、B級とかではぜんぜんないです。完成度は高いです。
ママにスカイプで外の様子を見せた途端「落ち着いて聞いて。あの人たちは全然知らない人。私の両親じゃない」というのは普通にゾッとする展開でした。


普通に楽しめるし怖がれる人もいるんじゃないかな。でも私はこれを怖がっちゃう人とは仲良くできないかな。というだけの話でした。
スケ

スケ