純

すれ違いのダイアリーズの純のレビュー・感想・評価

すれ違いのダイアリーズ(2014年製作の映画)
4.0
タイトル通りまさにすれ違いが多くてひたすらむず痒く、でもものすごくピュアなほっこり癒し映画だった。

タイの田舎では水上学校なる、湖の上に浮かぶキャンプ小屋のような学校があるようで、今回の舞台はこの水上学校。なんとこの学校、月曜から金曜までは寝泊まりも含めて先生と生活を共にして、土日に家に帰るという仕組みらしい。すごいよね。家族みたいになれちゃうね。

熱意溢れる新米教師のソーン先生は、4人しかいない生徒たちとの学校生活がどうしても空回りで、そんな時に見つけた日記で前任者のエーン先生を知る。そして、今ここにはいない彼女の文字やまっすぐな気持ちに励まされ、慰められ、勇気付けられながら、子どもたちと毎日の素朴な生活をキラキラと生きていく。

はじめ、前任者のエーン先生ってもしかしてかなり前のひとで、年齢がかなり上とかもう亡くなってるとかいう設定かなと思ってたけど、そうではなくて、ほんとにかすりそうでかすらない、絶妙なすれ違いがもどかしかった。それは「会えない」っていう距離、時期の問題だったりお互いの恋愛状況だったりするんだけど、ソーン先生はエーン先生の前向きな姿勢、子どもたちへの配慮、孤独との向き合い方に多くのことを気づかされ、会ったことのない彼女に次第に想いを寄せていく。ソーン先生が退職してからは恋愛にいざこざがあったエーン先生が戻ってきて、彼女もまた子どもたちから聞くソーン先生の人柄や、日記に綴られたまっすぐな想いに心を動かされていくという、若干できすぎでは、っていう設定だけど、心情の過程がすごく自然で、まずは「教師」として惹かれ合っていくのが良かった。しかも実話ベースなんだからすごい。2人の現在と過去がリンクして描かれるコミカルさも軽快で楽しい。

辺鄙なところでの仕事は不自由で待遇も良くなくて、恋人からは心配を通り越して攻撃されて(ほんとはそんなぶつけ方したくないんだろうけどね)上手くいかなくなる。それでも大切にしたい教師としての生き方と子どもたちと過ごす時間があって、不便だけど温かいあの場所に、ふたりは自分の居場所を見出せたんだろうね。

顔も声も知らない誰かの言葉に支えられるというのはロマンチックが過ぎる気もしたけど、でも誰しも少なからず誰かの言葉をお守りにして生きてるんじゃないかと私は思う。それは憧れのスポーツ選手の言葉かもしれないし、文才ある作家の言葉かもしれないし、身近な先輩や友達の何気ない言葉かもしれない。誰でもいつも胸にある大事にしたい言葉があって、そのひとがいなくても、そのひとに会えなくても、自分を支えてくれる言葉がそばにあるというのは、すごく幸せで、力強いことだ。不特定多数に向けられた言葉だとしても大事にしたい言葉に出会えたら幸福なのに、この作品でふたりは徐々にお互いにだけ向けた言葉を紡ぐようになる。素敵だね。不特定多数じゃなくて、そのひとにだけ届けたい気持ちや共有したい孤独があるのは、生きる中での最高のご褒美のひとつなんじゃないかと思う。結局ひとはひとりでどうにかこうにか生きていかないといけないし、孤独だけど、一緒に孤独でいてくれるひとがいる、「僕らは孤独だね」と心の中でも言い合えるひとがいる安心感が背中を押してくれる。ソーイ先生も、前任のエーン先生の孤独をずれた時系列で受け止めて、彼女と一緒に孤独でいられた。

ふたりはそれぞれの孤独と向き合いながらも、明るく朗らかな子どもたちと時間を過ごす中で人生を謳歌している。アコギの心地良い音楽をバックに、一緒に羽目を外してみたり、力を合わせて頑張ったりする姿はほんとに微笑ましくて、とてもほっこり。ふたりとも「生きる学び」を子どもたちに提供したくて、いつでも子どもたちにまっすぐぶつかっていく。その姿勢が衝突を生むこともあるんだけど、楽しく学ぶってこういうことだなあと思う。最初からただ教えてあげるだけじゃなくて、生徒の気づきを大切にして、じっくりとひとりひとりと向き合って、形だけの学習で終わらせない。ふたりは大人だけど子どもの視線まで下りて一緒に考えたり行動したりできるひとで、ひとを優しい気持ちにできる雰囲気があった。

エーン先生の方は少し癖が強くて、強情なところもあるんだけど、どんな困難にもへこたれない芯の強さがあって、格好良い女性だなあと思った。でも、そんなエーン先生でも弱さはあって、誰かにすがりたい、もう1度信じたい、と思うところもあって、そういう心の葛藤も丁寧に描かれていていた。

ソーン先生は、ひたすら可愛い(笑)もう見るからにひょうきん者!って感じで、まっすぐで、いつだって一所懸命で、ストップストップ!って言わないとずっと全力疾走し続けちゃいそう(笑)最初こそ上手くいかないけど、子どもたちと少しずつ心の距離を近づけていく様子がこれまた癒し、ほっこり。

起承転結がまとまり良く収まってて、終わりも最高にハッピー。個人的にはタイの文字って不思議な魅力があるなあ(象形文字みたいに絵がベースなのかな)っていうのと、エーン先生たちと日記の書き方がすごくツボだった。私は横線が入ってるノートよりも無地の紙が好きで、自分の好きなようにその時の気分で文字の大きさも余白も変えちゃいたいタイプなんだけど、まさにこの作品のノートは自分だけの日記って感じの書き方で、文房具好きというかノート本気使用者(?)としては「最高!最高のノートで賞!」って思ってた。何はともあれ、2016年最後に心温まる120%ハッピー映画を観れて、とても満足です。
純