KnightsofOdessa

コリドーのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

コリドー(1995年製作の映画)
4.0
[不安と希望のポートレート] 80点

カテリーナ・ゴルベワ可愛い以外の感情を完全に死滅させるシャルナス・バルタスの長編二作目。原題の意味は"廊下"であり、実際に廃墟同然のマンションの薄暗く無機質な廊下が何度も登場する。ソ連から解き放たれたリトアニアはどこへ向かうのだろうか、という漠然とした不安と希望のポートレートとでも言えば良いのだろうか。それをどこに繋がっているかも分からない廊下と重ね合わせているのかもしれない。どこかから話し声が聴こえ、足音が聴こえ、車が走る音が聴こえ、完璧に設計された音の効果が観客を90年代中盤のビリニュスに放り込む。そして、人々は読めない感情を湛えた顔を画面に晒し、カメラはどこを眺めるでもない目線を捉え続ける。

前作『三日間』よりも顔にカメラが近付き、物語の筋みたいなものも消え去り、作風は『In the Memory of the Day Passed By』に戻ったように思える。しかし、単純に戻ったという訳ではなく、水や火を象徴的に用いるタルコフスキー的な映像美も獲得済みであり、前作そして前々作から確実に進化していることを伺わせる。

誰も居ない庭でシーツが音もなく燃え上がり、ショットガンで笛を吹き、少女(少年?)は何度も泥水に押し戻され、孤独に歩き回っていた人々が踊り狂うシーンになだれ込む。物語なのか現実なのかも区別できないまま、バルタスは物憂げな顔で窓の外に目を投げ、ビリニュスの街は今日も生き続ける。
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