kunico

ディストラクション・ベイビーズのkunicoのレビュー・感想・評価

4.5
これはもはや「観た」ではなく「目撃してしまった」という表現が適している映画ではないか。
とてつもないモノをお腹いっぱい目撃してしまった。

ほとばしる狂気にクラクラし通しだ。
始まった瞬間から既にそれはスクリーン全体から嫌というほど伝わってくる。
柳楽優弥の背中、不穏なギターの旋律、走ってくるでんでん。
完璧だ。出だしから完璧すぎる。
そんじょそこらの不良映画とは訳が違うんだよ!!!と開始数分でガツンと訴えかけてきた。

柳楽は最初から最後まで筋金入りのキチガイなんだけど、凄いのはどんどん狂気に蝕まれていく彼の周りの人間だ。
我が国の映画業界は菅田将暉という逸材を本当に本当に本当に大切にしなくちゃ駄目だ!!!と心底思った。
ひ弱で終始ヘラヘラしっぱなしのチャラ男から、普段隠してきた汚い欲求を露わにしてゲスの中のゲスに成り下がっていく過程が強烈。
実際こういうタイプが最も許しちゃいけない人間なんだろうなと思う一方、世の中の大多数の人間は多分ここに当てはまるのだろう。
自分の実力で無いところに依存して、気が大きくなって自滅する。
こんなドン底に陥ってしまうのはいとも容易いはずで、誰しもが持っている危うさではないだろうか。

柳楽優弥の演技も勿論涙が出るほど素晴らしい。
ありゃもう人間じゃないね、私がこの目に焼き付けたのは人間じゃなくて怪物そのものだった。
特に、チャリンコから引きずり降ろされておっぱじまった喧嘩の終盤が泣けるほど凄い。
よっぽどの表現力が無いとあの長回しは苦痛でしか無かっただろうな。
全然感動シーンでは無いんだけど、私はあの柳楽で泣きました。ありがとう!ありがとう!!!

湿度と匂いを感じることのできる映画って漏れなく傑作なんだけど、間違いなくコレもその一つだった。
行き当たりばったりで喧嘩する、それだけの話なのにこんなにも重厚感を出すことが出来るのか!全くライトじゃない!
そして細かい!中国人のキャバ嬢とか脇役の設定がいちいち面白い!
且つしっかり笑わせてくるのがアッパレすぎるよ...あのスーパーのシーンで腹筋割れたよ...(嘘だよ...)

終わりが一番怖い。
今まで観てきたものがほんの序章でしかなかったことに気付いてゾッとした。
これからまた新しい物語が始まっていくことを匂わせる展開に、やはり主人公は怪物以外の何者でも無いのだと痛感しました。
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