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バービーのKtoのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
4.9
【ひとこと説明】
痛烈な社会批判を散りばめたサウスパーク的基調を備えた、大傑作ドリームポップコメディ

【感想】
●社会批判性を明るい笑いに落とし込む聡明さ
“Toxic masculinity(=有害な男らしさ)”や”Gender inequality”を正面切って批判している。特にtoxic masuculinityは2020年代映画の重要なキーワードであり、「パワーオブザドッグ」や「イニシェリン島の精霊」、「ドライブマイカー」でも(神妙に、あるいはシュールに)主題的に扱われているが、バービーはそれをいとも明るく爽快にコメディカルに描いていて最高だった。ライアン・ゴズリングに当て書きしたらしい「ケン」の情けない表情と振る舞いは、彼しか演じられない懐の深さと哀愁漂うユーモアによって映画史に残る最高級のキャラクターになっているのではないだろうか。

”男のばかばかしさ”を描くシーンが面白すぎた。「おれは性器あるぜ」と強がるケンのダサさ。男は投資を語りたがるし、ゴルフを教えたがるし、弾き語りを4時間も続けたがるし、「ゴッドファーザー」を語りたがるんだよな…。会場も爆笑してた。「馬と男社会に関連がないことに気づいて冷めた」というケンの愚昧さと素直さが、本当に愛おしい。

●メタ的なユーモア、多数のイースターエッグ
海外評でも”barbie is a visually dazzling comedy whose meta humor is smartly complemented by subversive storytelling. “と評されているように、観客の予想を超えるメタ的ギミックが投下されるのも最高。

主人公である定番バービーが、自分の実存を見失いかけて絶望するという、割と重要なシーンで「マーゴットロビーが言っても説得力がない」というナレーションが入るところとか衝撃的だった笑。会場が一番笑ってたかもしれない。第四の壁をナレーションで破壊するというとんでもなく前衛的なことをやっているのに、マーゴットロビーのスター性と愛嬌と、その時点で流れている映画の全体的な雰囲気によってそれをすんなり受け入れられてしまうという凄さに感動した。

「2001年宇宙の旅」を引用した、赤ちゃん人形→バービーへの進歩の大きさを誇張的に表現するユーモア。「ゴッドファーザー」や「高慢と偏見」を題材にしたジョークも面白い。

●鏡写しとなった2つの世界観の止揚
女性優位な社会であるバービーランドから、男性優位な社会である現実へ移動した後にバービーの認識が前進するのも重要だと思った。戯画的に描かれた男性優位社会(黒ずくめの男性社員しかいないmattel社の会議、工事現場のセクハラ発言、性的な視線)を経験することで、”故郷=バービーランド”がその鏡写しの様な世界観を有していたことを認識する。いずれの世界であれ「ある性別が優位な社会では、もう一方の性別が軽んじられてしまう」という構造そのものが問題であり、それを是正することが、社会に生きる全ての者の実存にとって重要であるということ。

女性のエンパワーメントという文脈で語られることも多いし、勿論それは映画にとって最重要な要素の一つなんだけど、「女性優位のバービーランドが理想である」わけではなく、誰一人として、ジェンダーを含めた属性によって軽んじられることのない社会が理想であるというメッセージがある。

ケンダムの設立に失敗したケンも最後まで救われている。

●「フランシス・ハ」からの明らかな一貫性
傑作マンブルコア映画である「フランシス・ハ」では20代後半女性、「レディバード」では女子高校生、若草物語では女性作家の実存を描いている。予算が大幅に大きくなっても、「何者になれるか/ならなければいけないのか/ならなくてもいいのではないか」を問い続けている。また「何者かになる上で、男性に救済される必要はない」という姿勢も一貫してて清々しい。若草物語でもローリーをフり、バービーでもCEOの「ケンと結ばれればいいだろう?」に反論する。

●”SEX EDUCATION”ファンにはたまらないキャスティング
あの三人が、主要なキャストで最集結しているのに感動する。コナースウェンデルズの、情けなくて馬鹿っぽい表情が、アダム役の時を思い出させて胸が熱くなった。
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