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バービーのidtakoikaのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
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コメディとしてちゃんとくだらな面白い。「バービー」「ケン」双方のナイーブすぎるところがストーリーの推進力になっているが、おもちゃだと思えば自然で、設定の妙を感じる。

フェミニズム的なメッセージも一辺倒ではなく、いろいろな気づきをもたらしてくれる。リーン・イン・フェミニズムの綻び、ウォッシング、同性内の分断を煽る言説、男性の被害者意識。また、フェミニズム的思想を何かに打ち負かすために用いるというよりは、自分(や周囲の人)を大切にしていくためのものであるというメッセージ性も、個人的には胸を打った。

一方で、「ケン」があの世界をつくりあげた過程があまり分からないのがもったいないと思った。女性側にもそうなる意志があったようにも思えてしまい、そうすると物語後半の「転換」に疑問符が浮かんでしまう。またその「転換」の具体的な方法についても、ちょっとダーティすぎやしないかと思った。ただこれは、自分のどこかに、女性により品行方正であることを要求する心性が残ってしまっていることが証明されただけかもしれない。

また、個人的には映画鑑賞のスタンスを省みる機会になった。前日に観た「ゴジラ -1.0」のことを「被害者意識の慰撫」と腐した割に、本作のフェミニズム的なメッセージ、より厳密には、フェミニズムの現在地を複数の視点から描けていることに対して「そうそう、こうなんだよ」と気持ちの良さを感じており、メッセージが異なるだけで心の動きとしては全く同じである。
映画を社会と自分を接続するメディアとして観るとした時に、それは自分の「正しさ」を確認するためではなくて、人物・事象の見方・描き方が自分にとってどういった気づきがあるか、というなるべくフラットな目線で観るようにしていきたい。
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