アラサーちゃん

ノクターナル・アニマルズのアラサーちゃんのレビュー・感想・評価

ノクターナル・アニマルズ(2016年製作の映画)
3.8
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〖ノクターナル・アニマルズ〗
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はじまり、センセーショナルなオープニングにこれは〖アイズ・ワイド・シャット〗の急襲か、もしくは〖ブルーベルベット〗への誘いなのか、と身構えたんですが、そこまで性的倒錯は描かれなくて安心して観られました。

20年前に別れた夫から突然届いた、ひと束の原稿。『スーザンに捧ぐ』と書かれた小説には、かつて彼が自分を揶揄した『夜の獣』を意味する『ノクターナル・アニマルズ』のタイトル。

小説パートに純粋に惹き込まれて観ていたんですが、ふと途中に冷静になり、突然、『何だコレ?』ってなりました。

内容は、無情にも凄惨に殺されてしまった妻と娘のための復讐劇なんですが、そんなスッキリした正義の話ではないんです。何か違和感。どこかしっくり来ない。
なんというか、主人公の心が見えてこないんです。トニーがエドワードになっている時点で、スーザンが主人公に元夫を重ねているのでスーザンの主観によるものなのか、小説そのものなのかわかりませんが、彼の心の表面は厚く厚く絵の具で塗り固められているんですよね。全然読めない。

怪しい男たちに囲まれた時も、ふたりの死体を見つけた時も、犯人に再会した時も、復讐を持ちかけられた時も、そして最後の瞬間も。
どのシーンも普通の人間なら感情が爆発するか押し殺すとか、感情失禁があってもおかしくないむごいシーンばかりなのですが、彼の行動や表情は謎だらけで違和感しかありませんでした。

このタイミングで満を持して届けられた小説。彼の意図するものはなんなのか。『夜の獣』はいったい誰なのか。
それはラストのスーザンまで観ていれば答えは簡単です。なんだかどうも消化不良なんだよな。この考察はこれはこれでストンとまとまるんだけど、なんだか気になる。

小説パートと並行して進む、過去のスーザンとエドワードや、虚無感に苛まれる現在のスーザン。
ここでスーザンが『あなたは小説に自分を取り入れすぎる』とエドワードを非難したり、『revenge』とデカデカと書かれたアート作品が登場したりする。

こんなに『何だコレ?』な内容の小説を魅力たっぷりに見せつけてくる意地悪な人が、果たしてこんな分かりやすすぎるリードを散りばめてくるんだろうか?

え、面白くなくね?コレ?

という感想に行き着き、モヤモヤを抱えたまま映画を観終えて、答えの出ないまま悶々と考えていたんですが。

映画の考察サイトを巡っていたらふと見つけてしまいました、このもやもやの正解に行き着く考察が!
序盤の門前カット、母親との確執、整形ババアが登場する会議でのやりとり、記憶に残っていたいろんなメタファーが頭の中を駆け回りました。

表の終着点とは180度異なる第二の見方ですが、もしもこれがミスリードだったとしたら、素晴らしい。素晴らしすぎるぞトム・フォード。
違和感のかたまり、自分で消化できないむしゃくしゃが、悔しいくらいすっぽり抜け落ちてなんだかご機嫌。
やっぱりトム・フォードは天才だったのか。