てっちゃん

葛城事件のてっちゃんのレビュー・感想・評価

葛城事件(2016年製作の映画)
4.4
冷たい熱帯魚を観賞した際に感じたイートシーンがすごかった!という感想を信頼おける方に、前のめりで伝えたところ、若干の後ずさりをされて教えてもらったのが本作です。

正直、出演している役者さんは誰も分からなかったけど、正気の沙汰ではない、この物語をどなたも完璧に演じきっており、葛城家が本当に存在し、狂気が崩壊が起こっているのを目撃した。

いやあ、すごいなこれ。
なんだこの衝撃。
始めから終わりまで嫌悪感しかない。この嫌悪感がよく我々が日常生活で感じているものであり決して誇張ではないし、我々も知らないうちにやっている"普通"のこと。
それを見せつけてくるから、あれ?これ自分のことじゃねえの?とか、うわ、これやっているわ、、と思う。そんな”普通”のこと。

自分の理想の家族像を追い求め、俺が正しいんだって、良かれと思っている元凶の父。
長年の間、”普通”に慣れて思考停止して完全な諦めと面倒を起こしたくないから従うを選んだ母。
出来る子と期待され親の言うとおりのまま育ち、結局は自分の意見を持たず、残ったのは他人の視線を気にする長男。
自分がこうなったのはお前らのせいだ、自分はやればできるんだ、他人を見下すことばかりに極めた結果、自分そのものに興味がなくなった次男。
さらに、一見すると正義の塊のような存在だけど、実はエゴの塊である死刑制度反対活動家である星野。

これらの人物が"崩壊"へと向かっていく話。
その"崩壊"が実に自然に起こる。
つまりは、観ている側にとっても、"普通"にやっている積み重ねの結果で、"崩壊"が起こるので、いつ自分や周りがこうなっても不思議ではないというのを思い知らされる。

こんなこと書いていると、すげえ重たそうな内容だなって感じかもしれないけど、確かにそうなんだけども、本作にはユーモアがある。
それも限りなく黒いユーモアがある。

父は気性が荒くなると丁寧語になるんだけど、これを次男も受け継いでいる。
お互いに忌み嫌っているもの同士なのに。
父の星野に対して、お前はどこかの新興宗教の勧誘か!は笑えるし、数ある名シーンの中でも中華屋のシーンは最高だったな。
あの場であんなことやる?って思うんだけど、やる人がいるんだよ。それすらも良かれと思ってやってる感じ。
店員さんに暴言言ってからの、ここの水餃子美味しいでしょ?、ってなにその切り替え。お前なあって感じだよ。
本当に最高のシーンだったな。
本作において、イートシーンはとても重要というか、人間描写なり生活感を現すのに、とても有効に働いているので、そこにも注目すると面白いかも。

構成も演出もお見事としか言いようがない。
こんな作品なのに、もう1回観ようという気持ちになかなかならないのが、本作あるある。

演出の中でも好きだったのは、長男が父の職場の机に座ったとき。
そこから見えた景色。余計な言葉で説明することもなく、これだけで兄の心情が分かるシーン。
あと、次男と星野の面会中に初めてカメラが次男側(獄内)から撮られるとき、一瞬だけ次男の人間らしさが出る。
こういう細かい演出、ひとつひとつが本当に練られている。

宇多丸さんの批評を聞いて、うんうんと頷き、本作を振り返る。
やっぱりそう思ったよね!、ここおかしかったよね!、自分だったらどうする?、、とかいろんな会話がしたくなる作品でもある。

あと本作公式HPに赤堀監督さんのインタビューが載っているので、見るとより理解が深まるのでおすすめです。

ただ難点を挙げるとすれば、声のボリューム幅があまりにも大きすぎるから、全然聞こえんやんけ!と思って、ボリューム上げて、暫くすると、でかボイスになって慌ててボリューム小さくして、、また大きくして、、ボリューム調整が大変すぎるわ。
たぶん劇場で観てると、そんなことないんだろうけど、大音量で観られないような環境だと、これはストレスにしかならない。
もちろん演出として、そういうのは大事だとは思うんだけども。

とはいえ、個人的にものすごく好みな作品でございましたとさ。
てっちゃん

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