みみみ

ガタカのみみみのネタバレレビュー・内容・結末

ガタカ(1997年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

世界が求めるのは優秀な遺伝子
それ以外は全くもって興味なし

【あらすじ】
優秀な遺伝子のみを持つ人間によって支配された近未来。自然出産で生まれた「不適正者」のヴィンセントは、彼の「宇宙に行く」という夢を叶えるべく、優秀な遺伝子を持つ元エリートであるユージーンと接触し、彼のIDと遺伝子情報を手に入れて宇宙開発会社に入社する。そして夢だった宇宙飛行士に選ばれるが、出発間近に上官が殺されるという事件が発生する。事件現場には不幸にもヴィンセントの毛が残っており、「不適正者」の侵入および犯行が疑われ始める。捜査の手は少しずつ、確実にヴィンセントに近づいていく。

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個人的にSFってこういうので良いんだよ、こういうのが良いんだよって思える作品だった。
サイエンスフィクションだけどフィクションすぎない、リアルの常識や倫理を一歩踏み外して、一歩踏み抜いたぐらいが好きなSFの塩梅。自分の生活にも通ずるところがあるぐらいがSFのちょうど良い塩梅。

この映画を見て1番驚いたのは、現代でも度々議論される人間の遺伝子を操作することで優秀な遺伝子を持つ人間を恣意的に生み出そうとする、所謂「人間の遺伝子組み換え問題」について1997年の映画でここまで触れられていたこと。
現代においても人間の遺伝子組み換え問題について議論される際は倫理の観点が争点になりいつも答えが出ていない印象があるが、何も最近になってこの議論がされて来たわけではなく、1990年代、ひいてはもっと前から議論され尽くしたものの、倫理的な問題があるからそれ以上は踏み込んではならない、タブーというボーダーラインの手前で常々議論が終わっている問題なんだなあ、ということを強く感じた。

そして、鑑賞中はラストのユージーンが自殺するシーンに疑問符いっぱいだったんだけど、みんなの考察を見て、なるほどなあと思わされた。
僕的に納得いく理由は下記3点かな。
①ユージーンとしての最大の夢の実現
②ヴィンセントへの「ジェローム」のプレゼント
③行き過ぎた科学への反逆
ユージーンはヴィンセントと共に「ジェローム」を共有しながらヴィンセントの夢である宇宙への渡航のサポートをして来た。そしてラストに遂にそれが叶う。パートナーの最大の夢が叶ったのと同時にユージーンは自身の最大の夢、目標である「適正者」になることを実現するべく自殺をしたのだ。ユージーンは過去に水泳選手であったが万年2位、1位になれることはなかった。そしてそんな「適正者」になれない自分を憂い、自殺を図ったがそれも失敗。不自由な身体となってしまう。そんな自暴自棄になっていたユージーンに生きる意味や希望を与えてくれたヴィンセントの夢を共に叶えたのち、自殺をする。本作の中で「ジェローム」の上官が自殺した時に「自殺の線はあり得ない」と語られるが、これは科学の力によって本人の自殺の確率さえも明確化・操作できてしまう、優秀な遺伝子は自殺なんてあり得ないはずなのだ。そしてこのまま「ジェローム」が2人存在すると、当然だがいつかは破綻してしまう。夢を叶えたパートナーの今後の人生を想い、自分や社会を苦しめる科学への反逆心を表し、以前は憎悪の対象であったはずの1位ではないという「不適正者」の証である銀メダルを握りしめ、過去に失敗した自殺を成し遂げる。ユージーンはユージーンなりの夢の実現をし、科学や数字を超越した「適正者」であろうとしたのだ。

そしてやはり印象的だったのはヴィンセントが「適正者」である弟に体力で勝利するシーン。この近未来において「適正者」の遺伝子情報を所有していれば、あらゆる社会や組織の入り口を突破できる(現にヴィンセントもユージーンの遺伝子情報を入手するだけで整形もせずにガタカへの侵入に成功している)。しかし、知力や体力は自分自身に依存するもの、かつ、遺伝子の優劣によって大きく左右されるものであり、後天的に科学の力で操作できるものではない。にもかかわらず、ヴィンセントは「適正者」である弟に、幼少期に、そしてガタカに潜入して弟に再開した際に見事に体力で勝利する。「人間様を舐めるんじゃねえ。科学なんかで測れる枠に収まるかよ。」という強い思いとメッセージ性を感じる良いシーンだった。

将来訪れるかもしれないディストピアを見事に描いた作品だったなあ。
完璧人間を造るんじゃなく、自分が自分であることを愛そうぜ。
みみみ

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