JunIwaoka

ルクリのJunIwaokaのレビュー・感想・評価

ルクリ(2015年製作の映画)
4.5
2015.10.29 @ 28th TIFF

まったく理解は出来なかったんだけど、なにかとてつもないものを観てしまった。。間違いなく今年観た中でも群を抜いて衝撃的な作品で、映画は必ずしもプロットや登場人物のことを理解することが良し悪しとなるわけではなく主観的になにかを感じるかが重要だなぁと改めて思う。
光差す長閑な田舎で、わずかな食料とわずかな燃料を頼りに自給自足する4人の若者たち。突然、耳を劈く戦闘機の轟音によって不穏さがたちこめ、恐怖や不安に疲弊していき、険悪となってただ生きだけの意味を失う。エストニアという隣接国で戦争が突然勃発した国だからこそ着想したと言える。恐怖や不安を直接的に描写することなく、余儀なくされる共同生活で緊迫していく心理描写を、宗教観によるメタファーと研ぎ澄まされた圧倒の映像美で綴る。悲しいのはドゥニ・ヴィルヌーブの作品を観ても思うけれど、話の前提される宗教観が分からないので悪魔や天使、イエスとかがモチーフにされても理解に苦しむんだよね。。終盤になるとより明確な展開はなくなるんだけど、言葉もなく十数分間も森を徘徊するシーンがとても美しくて魅入っていた。Q&Aの監督の言葉などから解釈しようとすれば、戦争による恐怖や強要させられる信仰心など、自由を抑圧させるものに対してのアンチテーゼで、ルクリと呼ばれるキリスト教が生まれる前から存在するという神聖な森で解放されるということかな。。いやぁわからねぇ。
監督自らシニカルなメッセージはないという通り、抽象的な映画だけど劇中に流れる曲の歌詞が直接的で、夜中に音楽をかけたときに感じる生きる心地や、最後にかかる"A Change is Gonna Come"の開放感にカタルシスを感じる。

こういう映画に出会いたいからこそ、映画祭に足繁く通うことをやめられなくなる。上映後に外で監督に直接伺う機会があって、ルクリの森において鳥が象徴するものは特別にあるのか?という問いに「自由」と答えてくれた。通訳をしてくれた映画祭の作品選定をしている矢田部さんにも解釈を伺うことが出来て、「この映画は何度も観たいですね。でもこれは一般公開されることまずないですよね。」と二人で笑った。
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