アラサーちゃん

バジュランギおじさんと、小さな迷子のアラサーちゃんのレビュー・感想・評価

4.0
憎しみが生んだ暴動もあれば、愛にあふれた暴動もきっとある。


パキスタンの自然豊かな村でのびのびと育った六歳の少女。声がでないことを気に病んだ少女の母親は、彼女をインドの寺院に連れていくが、その帰路ではぐれてしまい、彼女は身一つでインドに取り残される。
そんな少女が偶然出会ったのは、熱心なヒンドゥー教徒のパワン。ばか正直でお人好しな性格から、パワンは少女を預かり、親さがしに奮闘するが、共に過ごすうちに少女がイスラム教徒のパキスタン人であることを知る。苦悩するパワンだったが、彼女を母親のもとに返したい一心で、危険を省みずパキスタンに入国する決意をする。
パワンと少女の、未知なる旅が始まった。



二時間半。もはや1クールのドラマのダイジェストを観たくらいに壮大。そして、どこをどう説明していいのかわからないくらいにとりあえずスゴイ作品でした。

急に出てくるボリウッド・ミュージカルに「えっ?えっ?」と戸惑いつつ、いい流れで泣きそうになったところでラストこのカットかーーーい!って突っ込みつつ、やっぱり全体を通してボリウッドのスペクタクルは結果「スゴイ」って感想に行き着くんですよ。それ以外ない。


でも、そんなハヌマーンマンセーで終わる映画じゃない、アジア映画特有の、重く深くずっしりした味わいも感じられるのがこの映画。


ラストのシーンに言及しますが、素晴らしい景色のなかで長く長く続いている国境柵が、この隣国どおしで長く長く続いている争いの歴史を、想わずにはいられないですね。

隣国なんですよ。おとなり。それってなんて不毛で悲しい。
ヒンドゥー教の信者ハヌマーンに祈るすぐ後ろに、イスラム教のモスクがあって。ヒンドゥー教徒が菜食主義に徹底する食卓には、隣家からの肉の匂いが流れ込んできて。隣国には真っ直ぐで単純なトンネルひとつで行き来できるのに、地上には延々と続く電気柵。
なんて不毛で、なんて悲しい。


そしてなによりこの映画の魅力がなにかって、とにかく少女(ムンニー)が可愛いんですね。ヒジャブを被っていても可愛いし、長い髪を乱していても、ラスィカーが買ったお洒落な服装をしていても、何をしていても可愛い。
母親が恋しくて、腕輪や手錠を見るとすぐ欲しがっちゃうところも可愛いね。

声がでないぶん、しぐさや表情が愛らしいんですね。パワンが教えた、「イエス」の代わりに手をあげてこくこくうなずくしぐさ。パワンがばか正直に答えるたびに「あちゃー」と額に手をたてて離すしぐさ。それがほんとうにかわいい。
パワンに懐いて、腕をぐいぐい引っ張ったり、腰に抱きついたりするのもきゅんきゅんする。

これを見るだけでもじぶんのなかの汚いものがすべて浄化されていくような気がします。


最後の展開も、この設定でわかりきっているコテコテのラストのはずなのに、劇中いろんなことがありすぎて、そんなこと忘れていて、ラスト迎えた瞬間に泣きました。「あー!そっか!そうだよね!そうなるよね!」っていう、大泣き。

ちなみに一行めの感想は、「大使館に押し寄せたデモの暴動」と、「ラストの検問所に詰め寄る暴動」の対比が、ナワーヴの「憎しみにはみんな関心を示すのに、愛には」というセリフを重ねると面白いなあと思ったからです。

ということで、「ん?」「あれ?」と思いつつ、観終わったあとに思い返すと「すごくよかった!最高!」ってなる映画でしたね♪
いい映画、きょうまでだったのでギリギリに間に合って満足です♪