ナガノヤスユ記

胸騒ぎのシチリアのナガノヤスユ記のレビュー・感想・評価

胸騒ぎのシチリア(2015年製作の映画)
4.5
シチリアという場所は、現代人にとってのある種のファンタジー世界、ひとつの小宇宙であるらしい。そこでは、都会の現代生活で与えられた社会性(衣服に象徴される)ははぎ取られ、剥きだしの身体が曝される。男も女もとにかく脱いじゃう。始終これが徹底されているので、些か捻れてはいるけれど、僕たちはギリギリのリアリティを失わずにこの物語を追うことができる。その意味でちょっとした、おぞましいSFのような映画だ。この話をニューヨークやローマやパリでやってはいけない。やってはいけないというより、それをやると多分、ウディ・アレン的なコメディになるのだと思う。どっちが良い悪いではないけど、もちろん今作が目指したのはそこではない。
この手の物語には、仕掛け人とも言うべきファナティックなキャラクターはほぼほぼ不可欠な要素と言えるけど、この映画はそういった平板さも絶妙に回避してる。主要な4人のキャラクターは、都会ではそれはそれは大層な異星人かもしれないが、シチリアにおいてはこれはもう執拗なほど人間だ。
それぞれに象徴的な弱さを内包している。だから、レイフ・ファインズがエモーショナル・レスキューに身を委ねる、あの奇妙な舞の瞬間であっても、自分の成し遂げた大仕事、そんな過去に縋る年増男の悲哀がしっかりと体現されている。
すべてが蛇足のようで、一概にそうとは言いきれない、今かかえる空虚さの先に、現在を更新しようとする軽さと爽やかさが、ただ眩しい。