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ハドソン川の奇跡のpanpieのレビュー・感想・評価

ハドソン川の奇跡(2016年製作の映画)
4.5
メーデー、メーデー!
飛行機がニューヨークのビルにぶつかる悪夢にうなされサレンバーガー機長は目を覚ます。

2009年1月15日、航空機がハドソン川に不時着した。
この前代未聞の事件を当時ニュースで見た記憶が蘇る。
乗員乗客合わせて155名全員無事でハドソン川に浮かんだ飛行機の翼の上にに乗客が立っている!
こんな光景は今迄見た事がなかった。

川に着水する場合多くは全員死亡する可能性が高いという。
大都市の上空で起きた鳥による事故で最も危険な川に着水した事は乗客の命を救ったとも言えるが同時に危険に晒したとも言えビル街に落ちれば市民を巻き込んだ大惨事に発展しかねない大変な事故に繋がったかもしれないのだ。

国家運輸安全委員会が調査に乗り出す。
何故最寄りの空港へ引き返さなかったのか?
機長の判断は適切だったか?
サレンバーガー機長とスカイルズ副操縦士に聞き取り調査を重ね機長の言い分と違う調査結果が次々と明るみに出る。
シュミレーションで引き返しが可能だったという試算が出たという。
そして左エンジンは微動であったが動いていたというのだ!
機長は二基共停止していて空中で静止していた状態だったと話す。
真っ向から食い違う両者。

乗客の命を結果的に救ったのに国家運輸安全委員会の厳しい追及に何か釈然としない。
瞬く間に一躍英雄になったサレンバーガー機長は苦悩する。
私の判断は適切だったのか?

機長自身もその家族もマスコミに追いかけられなかなか会えずに疲労を積み重ねて行く。
マスコミの報道は加熱していきどのチャンネルに変えてもこの話題で持ちきりだ。
犯罪者を袋叩きにする事とは反対に事故で助かった乗客の感謝の声を連日報道しサレンバーガー機長は英雄として祭り上げられていく。

管制塔との緊迫したやり取りはとてもリアルだ。
観ている方にも緊張が伝わる。
空港へ引き返せという管制官。
両エンジンが止まり高度が低くて戻れない。
ハドソンへ!
機長の冷静な声が応答した後飛行機はレーダーから消え沈黙する。
絶句する管制官。

時折サレンバーガー機長の生い立ちから空軍時代の戦闘機の不時着したシーン、そして何度も繰り返される鳥との衝突の後ハドソン川に不時着するシーンを織り交ぜていく。
何度も繰り返す事によって観ている側に事故の追体験をさせる。
怖かった。

その日の気温-6.1度という過酷な冬のニューヨークのハドソン川に上着もなしで川の水に濡れ救助を待つ乗客の不安と救助に携わった人々の様子はとてもリアルで観ていて北国在住の私には凍てつく様な寒さが伝わってくる。
極寒のニューヨークの川に投げ出されなんでこんな目にと最初怒りも露わな乗客達もやがて飛行機事故で自分が生き残っているという奇跡に驚き感謝し幾人かの乗客にスポットライトを当て搭乗する迄のそれぞれの事情だったり事故後の様子を描いていてリアルに映し出している。

やがて調査も終わり国家運輸安全委員会は公聴会を開く。
その結果は…
公聴会でのシュミレーションのシーンには鳥肌がたった。
機長と副操縦士の言い続けてきた真実が明らかになる!
〝人的要因〟
やはりコンピューターで計算出来ない事だってある。
コンピューターは絶対ではないのだ。

飛行機が飛ぶ事が当たり前になった今の時代においても鳥の行動は予測不可能な事なんだという事が分かった。
鳥が大群で飛んでくるシーンは怖かった。
エンジンに巻き込まない様に今の技術でどうにかならないものか?
旅行に行きたいけど飛行機が怖い!(ノД`)
でもその前にお金もなく休みを取れる事もまずなさそうです。ちーん(´-ω-`)


トム・ハンクスは淡々とした演技でサレンバーガー機長の苦悩を静かに熱演している。
後で出てくる本人と被る。
私が今作でとても好きだったのはアーロン・エッカート演じるスカイルズ副操縦士だ。
サレンバーガー機長に一時足りとも微動だにしない絶対的な信頼を寄せ寄り添い援護する女房役だ。
時々皮肉の効いた台詞が私にはとてもツボで好きな役どころだった。
ヒゲが似合っていた。(*^_^*)

クリント・イーストウッドはやはり素晴らしい監督だ。
御歳86歳!
「ミリオンダラーベイビー」「ミスティックリバー」「グラントリノ」「父親達の星条旗」「ヒアアフター」ぐらいしか観ていないと思う。
しかも鮮明には覚えておらずこれを期に再鑑賞してみようと思う。
「アメリカンスナイパー」も「ジャージーボーイズ」も未見だ。
なので監督に詳しくないので偉そうなことは言えない。
でもまだまだ長生きして素敵な映画を撮り続けて欲しい。
ただ今作は素晴らしかったとしか言えない。
劇場で観たかった。

エンドロールが圧巻!
「奇跡を起こした男」のタイトルでDVDの特典として収められている映像も機長の人となりが良く分かりとても良かった。

機長の事故後に与えられた以前送っていた普通の生活とは180度懸け離れた事故によって強制的に変えられた運命。
良い事をしたのに一挙手一投足注目され過ぎるのはプライベートが無い様で見ていて辛く怖かった。
〝ただ仕事をしただけ〟
サレンバーガー機長の生真面目な生き方に共感した私もやや生真面目だがそこは変わりたくない。
彼の生き様を私も見習いたいと思った。
自分のやれる事をその瞬間精一杯やる。
勉強させていただいた。
とても静かに訴えかけてくる熱い映画であった。
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