りっく

ハドソン川の奇跡のりっくのレビュー・感想・評価

ハドソン川の奇跡(2016年製作の映画)
4.1
イーストウッド作品としては珍しい90分あまりの映画だが、テーマは明確、語り口はスマート、そして映画としてエレガンス。

冒頭で悪夢に魘され起きるトムハンクス。彼を写す顔は真っ黒な影で覆われ、もはやトムハンクスかどうかも分からない。J・エドガー、アメリカン・スナイパー、グラントリノ…。彼の映画で反芻されるキャラクター像である。

本作のテーマは「決断」だろう。思えばイーストウッドは役者として、そして監督として常に殺る殺られるの瞬間で法や倫理を超えた「決断」で悪を捌いてきた。そういう意味では、イーストウッドがこの機長のグレーゾーンに焦点を絞り、そこから「決断」という要因によって3.11以降のアメリカのヒーローである彼の顔を浮かび上がらせるという作劇はまさにイーストウッド的だ。

劇中で回想により二度、着水シーンが描かれる。それを1度目は他の方法は果たしてなかったのかという疑念の目で、そして2度目はこの方法しかあり得なかったんだという彼の行動を讃える目で、それぞれ観客は見ることになる。この辺りの構成はイーストウッドであればお手のもの。役者陣ではトムハンクスを支える副機長役のアーロンエッカートが実に素晴らしい。
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