レオピン

コンカッションのレオピンのレビュー・感想・評価

コンカッション(2015年製作の映画)
3.8
人間には衝撃から脳を守るどんな構造もありません
人間の脳は60Gで脳震盪を起こします
フットボールで頭をぶつけた衝撃は?100Gです
神はフットボールをさせる気はなかった

アメリカ人の精神の柱とも言われるアメリカンフットボール。このスポーツの裏に隠された真実。NFL村とも呼べる業界の闇。絶対の組織防衛、フィードバックを断固拒絶する態度。

終盤で90年代のタバコ産業と同じだという議会証言があるがNFL協会の姿勢はまさにそれだ。
ちょっとこれがどれ程のスキャンダルなのかというところが今イチ日本人には伝わらないかもしれない。

強引にお笑いに例えてみる

ある日、引退していた元漫才師が突然自殺を遂げた。彼は長年精神の不調に苦しんでいた。その原因は長年彼が相方から受け続けていた頭部への激しいツッコミ。脳を揺さぶる程の衝撃が積み重なり、彼の脳細胞は死んでいった。彼以外にも同じように人気のあった芸人が何人も命を落としていた。

この問題を既に漫才協会は掴んでいた。だが事が発覚すれば業界自体の存立に関わる。ツッコミのないお笑いなんて。誰も漫才を見なくなる。この世界を目指す若者もいなくなるだろう、劇場はつぶれ雇用は失われる。だからこれをもみ消しこの事実について触れ回るものには徹底的に嫌がらせをする、、、

馬鹿馬鹿しいからやっぱやめるw
とにかく敵は巨大だ。スーパーボウルが最大の国民行事であり、オリンピックの時期が動かせないのも全部彼らの放映利権のせい。いかにアメフトが危険なスポーツだという認知が広がっても莫大な利益を上げ国技とされる競技をそう簡単にやめられるはずがない。

映画の中のジョークで、ヘルメットに広告として警告文をのせるべきだと言う台詞がある。
「あなたの健康を害する怖れがあります」
タバコの喫煙率も劇的に下がったのだ。せめて10代の若者には何らかの対策を講じて欲しい。

ラストカットは高校のグランドで学生たちの練習風景を眺める姿で終わる。エンディングの so long と響く歌声にまだこの問題はスタート地点についたばかりなんだなと嘆息した。

上司のシリルにアルバート・ブルックス。最近では『ドライヴ』に出演。
元NFL村の医師ジュリアンにアレック・ボールドウィン。
端緒となった元ピッツバーグ・スティーラーズのマイク・ウェブスターにはデヴィッド・モース。彼の晩年と鉄鋼の町のラスティな凋落とが二重映しとなり哀れを誘った。

シナリオが混乱しているという評もあったが確かにそうみえる所がいくつかあった。
どこにもはっきりした悪はいない。大ボスの不在。この問題は構造問題であり人ではなくシステムの問題なんだということを言いたいのだろう。だとするとFBIらしき車に尾行され妻が流産してしまうというシークエンスに違和感も残る。クライマックス前の葛藤がちょっと弱いというか元々人物をはっきり見せないので、そこが惜しいところか。

でもやはりこの主人公夫婦の持っている賢さと内なる強さには頭が下がる。
アフリカから来た誠実で奥手な男としっかり者の娘。
私のモデルは誰か知ってる? あなたよ

彼女がいたからベネットは押し潰されそうになりながらも踏ん張ることができた。

ベネットの芸術家肌の性格はとてもユニーク。最初の裁判でも学歴に妙にこだわってみせたり、自宅でのテレビを嫌うところや執刀では死体に語りかけ音楽を聴きながらメスを使い捨てたり、独特のスタイルを持っている。

若い頃とは違って、中盤以降は大方がっかりしょぼくれて、いつも涙目っぽい顔を見せるウィル・スミスにやられた1本でした。

⇒慢性外傷性脳症(CTE)

(2019.7)
レオピン

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