烏丸メヰ

エリザベス 神なき遺伝子の烏丸メヰのレビュー・感想・評価

エリザベス 神なき遺伝子(2014年製作の映画)
3.8
科学技術により生まれ“初のクローン人間”として世間に公表された赤子・エリザベス。
クローンの是非は物議をかもし、科学技術と生命倫理が世の中をざわめかせていく中、エリザベスの産みの親である科学者は自宅にエリザベスの保育器を移動する。
暴動が加速し、騒ぎは科学者の妻や周囲の人々をも飲み込んでいく。
そしてーー


数年前の「未体験ゾーンの映画たち」にて紹介された一本。
邦題と、日本版のキャッチコピーがかなり大袈裟なので、そこから期待値を上げたりそこに焦点を絞って観てしまうとかなり脱力してしまうかもしれないが、非常に丁度いいスケールとストーリー性の観やすいバイオホラー。

「クローンのエリザベスがヤバい奴で怖い存在!」などという安易な設定ではなく、科学技術により生まれてきたエリザベスをめぐる人々の感情が渦巻く群像劇がメインとなる所がまず良い。
技術盲信の科学者ヴィクター(ヴィクトール・フランケンシュタインに因んだキャラクター名か)、あくまで人間らしくエリザベスに接する彼の妻をはじめ、科学者サイドでありながらクローンに異を唱える者、技術に希望を感じる病人、宗教や倫理から暴徒と化す群衆、そして、ストーリーの核となるもう一組の家族とその過去。


「テーマや言いたい事が分からない」という感想が目立つが、答えが出にくくはっきりと提示されないというだけで、SFホラーとしては主題とストーリーはかなり明確(生命倫理と、生み出す側・生み出される側・技術と神の領域の間に横たわるひずみ(ネズミの描写に注目)等)。
倫理観を扱っていながらも攻撃的に説教してこない作風がまず映画としてフラットに観れて良い。

個人的に『スプライス』が好きなのだがこれがかなり人にオススメしにくく(笑)、似たテーマの本作なら!と思ったのだが意外なほど評判がイマイチで、これもオススメしにくいのかなと少し残念。じゅうぶん説明もテーマも提示されてると思うので、何がそこまでいけないのか私には感じられないが、オススメはやめとくのが無難なのかな。


神に近づく行為を信じる科学者と、それを許さない人々、技術により生を受けた恐ろしくも悲しい産物……
渦巻くそれらの業や思惑の中心でありながら、映画を通しエリザベスはただ“生きていただけ”だ。
烏丸メヰ

烏丸メヰ