まるみ

日本で一番悪い奴らのまるみのレビュー・感想・評価

日本で一番悪い奴ら(2016年製作の映画)
-
実話ベースで、しかも題材としては中々タフなものだとは思うのだが、
後味としては不思議なほど爽やかでバカっぽさがある。

さすがにラスト辺りの関係者のあれこれなどは重いものが残るが、
その辺りをやたらに強調して何かを告発してやろうというような意思はないのだろう。

置いとくべきものは置いとくからね、と目配せひとつといった感じ。


無我夢中で走ってるうちに止まれなくなっていく熱量とその火が消えていく様を見せる。
昔はこういう映画沢山あったよね。

演出も意外なほど繊細なリアリティラインをきっちり抑えていて(裏切り者の静かさ、とかそれを知った時の静かさ、とかね)、
キャスティングを一瞥した第一印象ほどの無軌道さは全くない。

むしろ、このキャスティングこそが割と肝で、
キャスト自身の役者としての異物性と、役柄のそれとを絶妙にリンクさせるという仕事が、
さり気なくも鮮やかになされている。

主人公の綾野演じる諸星が変わっていくきっかけを作る、
「外側」との入り口である村井/ピエール瀧は、
異物という出自でありながら、ほぼこちら側に定着しているどころか、
むしろ主翼を担っているほどであるにも関わらず、ハッキリと残る「異物感」だし、

バディを組む黒岩/中村獅童は、
住む世界はハッキリ違うが、根っこは同じで立場もある。だが境界は曖昧な越境者でもあるし、

山辺/YOUNG DAISやラシード/デニス植野は完全な異邦人でまだ根は下ろしていない。(なのにめっちゃ上手いのよこの2人)

一見、てんでバラバラに思えるキャスティングかもしれないが、
その実このようにその異物感の濃淡はきっちりコントロールされており、

こっち(警察)側の、渋いまでに役者然とした顔ぶれとの対比は明らかで、

そのブレのなさもまた、前述の繊細なリアリティライン上のキャラ造型にとても説得力を与えている。


キャスティング自体はともかく、この手法自体はそこまで突飛なものではなく、
古典的でさえあるといえるものだが、

主演経験があるとはいえ、役者としてのキャリアは浅いラッパーなんていう人選にも関わらず、そこにすら昭和感が漂うのはそれ故である。

今時、こんなところに心を砕いて作劇、キャスティングをする日本の監督がどれだけいるのだろうか?

近年の三池監督あたりの商業よりの作品での、
似て非なるキャスティングの今っぽさなんかと比較すると分かりやすいだろうか。

もうひとつ、ハッとさせられた場面でいうと、

諸星がついに○○されるシーンの、その状況の現実感のなさはとてもリアリティがあって、

その直前のアレの余韻もあったせいで、
「あれ、これって現実?悪い夢?幻覚なのかな・・・?いやいやいや、これ現実だわ。現実なんだわ」

って感覚、あれは絶妙でしたねえ。すごく分かる。


この作品のハードボイルド性の文字通りの「食いにくさ」が、
今の映画、邦画水準のどの辺りを狙われていて、実際どの辺りに着地しているのかが、
気になる割にはいまいち掴めてやしないのだが(まあ、そもそもR15なのに食いにくさもクソもないのかもしれないが)、

もうちょっとこういうのも食ってくれないと、両極端なものしか残らなくなっちゃうよねと。

「昭和感」の新しい扱い方、もしくは避け方がひとつの課題のような気がしている。

もうすぐまた年号変わっちゃいそうだけど。
2017/2/27
まるみ

まるみ