satoshi

アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場のsatoshiのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

 アメリカ軍とイギリス軍による軍事作戦を描いた作品。ジャンル的には戦争映画にあたるのでしょうが、本作はかなりの異色作です。

 まずこの作品、戦闘のシーンが皆無です。というより、兵士が戦場に行きません。実働部隊はいますが、活躍しません。ではどこにいるのかと言えば、別の国の基地にいて、そこでドローンを操り、作戦の指揮をしているのです。技術が進んだ現代だからこそできることだと思います。そして話は、テロ組織が潜伏している家にミサイルを落とし、女の子を犠牲にするのか、落とさずにテロの準備を見過ごすのか。この究極ともいえる選択のみで進みます。

 劇中、現場の指揮官や兵士は、刻一刻と変わっていく状況の中で、常に判断を迫られます。ここで、作戦はオンラインで政府とつながっているため、現場の人間は、常に上や、顧問の人間に許可を得なければなりません。ではその人たちがビシッと判断できるかと言えばそんなことはなく、「シン・ゴジラ」のようなグダグダなやり取りが行なわれ、最終的に決断はたらい回しにされます。この官僚制を描いている点も、異色な点です。面白いのは、現場は非常にシリアスなのに、階級が上にいけばいくほど、演出がコメディタッチになることです。現場の兵士は命を奪うことに葛藤しているのに、上の人間はエビで下痢したり卓球にいそしんでいたり散々です。笑えるシーンですが、同時に、私はこのシーンを見て少し恐ろしくなりました。何故なら、「平和」な世界と、「戦場」の世界が、リアルタイムでこの世界に存在しているという描写なのですから。

 紆余曲折の末、ミサイルは投下され、女の子は死亡してしまいます。何とも皮肉な結果だと思います。劇中の台詞でもありましたが、兵士の安全は完全に保証されているのに、何の関係もない女の子が死んでしまうのです。女の子が死んだときの、戦場にいる父親と、「安全な戦場」にいる父親(アラン・リックマン)の対比が見事です。両者にとって、娘はどちらもかけがえのない存在だったと思います。しかし、安全な国にいる父親は娘におもちゃを渡し、戦場にいる娘は亡くなり、その父親は悲しみに暮れます。どちらもかけがえのない命のはずなのに。これが、今も世界で毎日のように起こっていることなのだと突き付けられる映画でした。
satoshi

satoshi