サマセット7

貞子vs伽椰子のサマセット7のレビュー・感想・評価

貞子vs伽椰子(2016年製作の映画)
3.1
監督・脚本は「コワすぎ」シリーズ、「オカルト」の白石晃士。
主演は「桐島、部活辞めるってよ」「ザ・ファブル」の山本美月。

女子大生の倉橋由里(山本美月)は、友人の夏美の頼みでVHSビデオをDVDにダビングするため、中古でビデオデッキを購入する。
しかし、デッキには呪いのビデオテープが入っており、夏美がこれを見たため、夏美は2日後「貞子」に殺される呪いを受けてしまう。
一方、女子高生の鈴花(玉城ティナ)は、転居後、向かいにある廃屋に、凶々しい気配を感じる。
後に級友に聞いたところ、その屋敷では一家心中があり、その後家に入った者は、変死を遂げるという。
夏美を救うため奔走する由里だったが、紆余曲折を経て、霊能力者常盤経造(安藤政信)と珠緒(菊地麻衣)と出会う。
経造は強力な呪いである「貞子」を、鈴花の向かいの幽霊屋敷に潜む「伽倻子」とぶつけて相殺させると言うが…。

Jホラー界の2トップである、「リング」シリーズの貞子と、「呪怨」シリーズの伽倻子を対決させるという、お祭り企画のホラー作品。
全般に評価は低いが、興行収入10億円と言われる大ヒットとなった。

監督の白石晃士監督は、フェイクドキュメンタリーの方法で、ホラーと見せかけて、シュールなナニカを撮る作風で知られる。
代表作のオリジナルビデオシリーズ「コワすぎ!」では、冒頭で予想されるジャンルが話が進むにつれて別ジャンルに飛躍する、という手法を用いて、予測不能のストーリーを毎回用意してくれていた。

今作では、フェイクドキュメンタリーでこそないものの、ジャンルの転換という持ち味は活かされている。
また、vsもの、という面白企画である時点で、心霊ホラー的な恐怖が後退することは確実なため、ある意味で恐怖だけに焦点を当てない白石監督の起用は、相性が良いという判断はあったと想像できる。

とはいえ、今作では、かなりの尺を使って、「リング」「呪怨」両シリーズのダイジェスト的な恐怖演出を見せる。
霊能力者経造が登場するまで、基本的には、リングや呪怨の文脈で、次々と人々が恐ろしい目に遭う様が描かれる。
この部分は、そこそこしっかりホラーしているので、全然全くホラーはダメだが、コメディと聞いたので見る、と言う方は注意を要する。

その演出が怖いか?というと、正直、全然怖くはない。
そもそもJホラーの歴史的作品である「リング」以外の作品における貞子は、ジェイソン的なホラーアイコンと化した感があり、黒髪白衣の有名なビジュアルがガンガン出てくるため、「分からないもの」「見えないもの」の怖さ、という心霊ホラーの本質的恐怖からは、程遠い存在になってしまっている。
呪怨に至っては、成り立ちからして、従来の心霊ホラーのアンチテーゼとしてガンガン霊の姿を見て見せていくスタイルをとっている。
今作でも、白石監督の趣向もあり、両キャラクター共に、ガンガン姿が写される。
これは、個人的には、怖くない。
奇っ怪さや、生理的嫌悪、お化け屋敷的なびっくり感は感じるが、恐怖というのとはまた別なような気がする。

胡散臭い霊能力者登場から、今作はいよいよ霊能力バトルものに舵を切る。
山本美月と玉城ティナが全力で怖がってくれるため、一応ホラーの体裁を保っている。
とはいえ、心霊ホラーとして保持するべき最低限のリアリティは、霊能力者の登場でほぼ失われるため、どちらかというと後半のジャンルは、伝奇映画やダークファンタジーとでもいうべきだろうか。

今作を観る誰もが期待する対決シーン。
ここで、突き抜けたコメディ描写、プロレス描写、シリアスな笑いなどがあれば、個人的には、さすがは白石監督!となったと思うが、今作は、面白方面にも突き抜けない。
あくまで、心霊ホラー風のバトルものという体裁を貫いてみせる。
これは、好みが分かれるところだろう。
個人的には、これはこれで一つの形だと思うが、中途半端との評価も成り立つだろう。

企画優先のお祭り作品であり、今作のテーマは、有名なキャラクター2体を戦わせると、どうなる???以外のものはないように思う。

企画自体がお祭り的勢いで立てられたと思しき作品のため、ツッコミどころは多い。
特にそれぞれの原作ファンは、設定の改変や無視が目につくかもしれない。
あまり深く考えず、頭を無にして楽しむが吉であろう。

Jホラーの二大キャラクターを激突させるというアイデア一本勝負の娯楽映画。
なんやかんや、観てしまっていること自体が、ネタの秀逸さの証明であろうか。
時間も短く、暇つぶしに頭を空にして、サクッと消費する選択肢にはなるかもしれない。