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海よりもまだ深くのKamiyoのレビュー・感想・評価

海よりもまだ深く(2016年製作の映画)
4.5
2016年 ”海よりもまだ深く” 監督.脚本 是枝裕和
僕も団地育ちなので、もう、実家に帰ったような懐かしさ。
まるで自分の話のようでもある。身につまされる。
母との関係。
『どうしてこんなことになっちゃったのかね?』と

母・淑子(樹木希林)と15年前に文学賞を一度獲った売れない作家の
長男・良多(阿部寛)別れた妻響子(真木よう子)の日常のやり取り。
是枝監督が自身の原風景と認める、実際に9歳から28歳まで家族と暮らした清瀬市の旭が丘団地を舞台に物語は進展する。
さしたる出来事が起きるでもないが、細部まで目配りが行き届いた
展開は心を捉えて離さない。

阿部寛のダメ男ぶりが秀逸である。とぼけた感じも良い。
主人公の篠田良多は、間違いなくダメ人間で。
文学賞をとったがその後鳴かず飛ばずで、
探偵社で詐欺まがいの裏仕事をする
良多は離婚した妻への養育費の支払いも滞るだらしなさで
父親が死んで半年後の老いた母親が一人で暮らす団地の家に出入りし
金目のものを漁り、姉(小林聡美) にも呆れられるダメ人間ぶりで
あまりに情けない。
だが考ていることは男ならではの単純さが露出しすぎていてどこか
共感できる部分もあるのが面白い。
どころか自分のダメな部分を重ね合わせたり
してしっかりしろよと諭してあげたくなるんですよねぇ。
”立川の競輪場のおやじ達が妙にリアルだった”(笑)

樹木希林は相変わらず巧い。
ダメ息子良多(阿部寛)を母親の深い愛情で見守り続ける
淑子役の樹木希林が相変わらず完璧だ。
母子のやりとりが、クスクスとした笑いを随所に呼び込む。
ダメな子ほどかわいいというが
身も花も結ばない木でも毎日水を欠かさないように
いつまでも一人前になれない息子を見守っている母親像が温かい。
息子のダメなところは、親譲りであることが、親子の悲しさでもある。

その台風の夜に、ひょんなことから別れた妻と息子がこの団地に集う。
良多の子どもの頃の記憶のように、強い風雨の中
公園のタコの滑り台に息子を誘う。
心配した元妻も合流して、久々につかの間の家族だんらんの
時間を過ごすことができた。
けれど、失われた時間はもう戻らない。
良多は、ようやくそのことを思い知らされる。
元さやに戻ることは恐らくないであろう。
女性はいつも現実の生活を優先して考える生き物ではないだろうか。
そうだとすれば、いつまでも自立できない良多にチャンスが巡ってくることはないのである。
台風一過の朝。今日から良多は、少しでも変わることができるのだろうか
「子どもから大人になりきれないのが、大人というものだよ」

樹木希林の[印象に残る台詞]
樹木希林「(ベランダの)ミカンの木にあんただと思って水やってる」「花も実もつかないけど」
阿部「俺だって誰かの役に立っているよ」
樹木希林「大器晩成だから」「時間かかり過ぎよ」
樹木希林「私がだんだん弱って行くのを、あんたちゃんと見てなさいよ」
樹木希林「寝たきりで中々死なないのと、ポックリ死んでずーっと夢に出て来るのと、どっちがいい」
樹木希林「幸せってのは何かをあきらめないと手にできないものなのよ」
樹木希林「私は海より深く人を愛したことないけどね。あんたあるの。ないから生きていけるのよ。人生なんて単純よ。メモしなさいよ」

僕がこの映画一番好きなシーンですね。。
団地の一室で阿部寛と真木よう子の2人の会話のシーンがすばらしい。
普通の会話の台詞が絶妙に描き込まれている
真木 『書いてるの』
阿部 『今さあ ほら純文学の時代じゃないんだよな。。』
真木 『ずっと言っている』
阿部 『今度さ・・漫画の原作やらないかという話が来ている』
真木 『だから前から言ってたのに 人の言う事聞かないから』
阿部 『それ決まれば 養育費だっては毎月』 
真木 『もういいけどね 無理して会うわなくても』
阿部 『別に無理なんかしてないよ 父親として当然ことしてるんだよ』
真木 『月に一度の父親ゴッコで よく言うわよ そんなこと』
阿部 『ゴッコという事ないだろう』
真木 『ゴッコはゴッコでしょう』
阿部 『じゃあ 俺は週1でもいいよ』
真木 『できないくせに そんな一生懸命父親なろうとするなら』
真木 『何で一緒にいた時にもう少し・・・。別れたんだからね』
阿部 『でも終わってないだろ 俺はずっと真悟(吉澤太陽)の父親なんだから』
阿部 『それは 俺たち夫婦が将来どうなろうと変わらない事だろう』
。。。。。。。。

阿部  真木に彼氏のこと聞く 未練がましく『愛があるのか』
真木 『愛だけでは 生きてけないのよ 大人は』

ラストに
真木『もう決めたんだから前に進ませてよ』
阿部『分かってる。分かった。分かってた』
この台詞は絶妙にすばらしい。
真木よう子は、愛されたくないオーラ、冷たい雰囲気を出すのがとてもうまいと思う。あれは相手の男だったら心折れるね。笑

負けず嫌いで、努力して、ホームランを狙うのは、素晴らしいことだと思うけれど、皆がそうでなくても構わない。
四球で塁に出ようと狙ってもいいじゃないか。
ホームランを打てるようになった方が人生がもっと充実するように
思えてしまうけれども。

海よりも深く誰かを愛したことはないけれど
だからこそ生きていける。
何度も重ね塗りした油絵の具の底に沈んでしまっても
消えずに残るものがあるのなら、何も無駄なことはない。
なりたかった大人にはなれなかったし、もうなれないと思う。
それでも、 過去に捕われるのではなく、未来を憂うのではなく
現在をなんとか慈しんで生きていきたい。

ラジオから流れるテレサ・テンの「別れの予感」とは
タイトルもこの歌詞に由来している作品の原点である
『海よりも まだ深く』
『空よりも まだ青く』
『※あなたを これ以上 愛するなんて
『わたしには出来ない※』
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