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海よりもまだ深くのkunicoのレビュー・感想・評価

海よりもまだ深く(2016年製作の映画)
4.3
近頃上質な邦画との出会いが溢れていることに大変ご満悦な私である。

日本人なあなたに是が非でも観てほしい。
前作「海街diary」をカンヌ出品・海外進出させた是枝監督であるが、それには桜や花火など外国人が観て楽しめる要素がふんだんに盛り込まれていたこともあり、一種の文化伝統映画として日本の美しさを世界に発信していた。
今作が持つ美しさは言葉にすることが難しいながら、日本人特有の感覚で捉えることが出来るものだと思う。
この映画に丁寧に、繊細に映し出されている映像は、私達の記憶の奥にするりと入り込んできては、懐かしい気持ちで一杯にしていくのである。
団地という舞台もそうだが、何気なく置かれた万華鏡や使い込まれた硯、凍らせたカルピスやペットボトルで作ったジョウロなど、少し前の生活だったら今よりも頻繁に目にしていただろうものが「ウォーリーを探せ」状態で続々とスクリーンに姿を見せる。
「使用禁止」のテープが張られた公園のタコさん滑り台が最も象徴的ではあるが、是枝監督はいつ無くなってもおかしくない様な風景を惜しむようにひたすら映し続けていた。

家族の再生を表すものとして宝くじが用いられるシーンがあるが、本来男のダメさ加減を露呈させる役割で登場した小道具が終盤にまさかの本領発揮をしたことに驚いた。
驚いたといえばへその緒も。
家族を繋げるもの、結びつけるもののメタファーとして本や掛け軸などでは無くへその緒が出てきた時はあまりの直球にびっくりしてしまった。
人間は誰かと繋がってこの世に生まれてくるということ、家族なんてものはいくら面倒臭くても切っても切れない何かで結ばれ続けているということをドストレートに伝えてもらった。
これまでの3人とこれからの3人を感じさせるラストの傘のカットも印象的。

主人公の仕事面では多少のドラマを取り入れつつ、プライベート面では観る者の共感や親近感を持たせるストーリーになっており、演者の素の演技を十分楽しませてもらえる。
特に、樹木希林は国宝かよ!と思うわけです。
この人の姿をスクリーンで観れるのはいつまで何だろうと考えながら毎回劇場に足を運んでいるが、コレは間違いない。この上なく可愛い。そして優しくてあたたかい。いつまでもお元気でいてください、希林さん。

バラバラになった家族が静かにゆっくりと形を変えていく様子を見つめる「だけ」の映画だなんて絶対に言わせない、等身大のあなたの物語。
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