ガンビー教授

ダンケルクのガンビー教授のレビュー・感想・評価

ダンケルク(2017年製作の映画)
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いろいろ言いたいことがある。

良くも悪くも疲弊した。ということは、まぁ作品として半分は成功しているということではなかろうか。

作家として激しい毀誉褒貶にさらされがちなノーランではあるが、今回はうるさい理屈をすっ飛ばして肌感覚での焦燥感の演出に神経を注ぎ込んでいるのはとても良かったと思う。

音楽がよい、と周囲の声。しかし、僕は音楽の使い方がどうも説明的に感じられてしまった。

この人の特殊な時間感覚は割と興味深く見ることができた。まぁ、最後に時間がつながったからって「だからなんだ」と言ってしまえないこともないと思うけど……。

オープニング、よい。この映画のルールのようなものを端的に説明していると思う。

主役のひとの顔がいかにもノーラン映画的。主役の顔に作家性が表れるというのはたぶん良いことなのだと思う。

特に優れている場面を2つ挙げるなら、「故郷だ……」のところと、ラスト付近、飛行機が着陸準備に入るところで背景に浜辺の町並みを映しながら右から左に滑空する映像。どちらも美しく、極めてまっとうな意味で「映画的」な瞬間だったと思う。

あまり気に入らないところを挙げるなら、空中戦の大部分。ほとんど周りに目印となるものがない空間で、位置関係の推移としてのアクションをさばききるのは容易な業ではない。そしてノーランは、そういうのが上手いかと言われればお世辞にも上手くはない。
正直、映像を観ながらも頭の中ではブリッジオブスパイの非常に大胆な空中アクション(?)シーンが再生されていたことを書いておくべきかも知れない。あと、スピルバーグがダンケルクを撮れば良いのに、とかそういうことを言い始めたらきりがないのでそれはやめておきたい。

また、戦争の直接的な被害とは別に亡くなってしまうキャラクターがひとり登場するが、この挿話などはけっこういいと思うのだけど、彼が致命的な怪我をする瞬間の撮り方……もうちょっと何とかならなかったのかと映画館で口走りたくなってしまった。
愚痴ついでに、会話シーンの撮り方も本作のほかの部分には活き活きした瞬間があるだけに死んでいるように見えるときがある。

改めて、やはりノーランはリアリズムの人ではない、と実感した一作だった。実写志向とリアリズムは、実写映画とドキュメンタリーほど違うものだと思う。

この映画がリアルでないということは、いち帰還兵のこの作品を見た上での感想「映画のほうがうるさかった」がすべてを物語っている。あと、言うまでもないが、本作がリアルじゃないという表現は本作への批判ではない。
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