映画ネズミ

ダンケルクの映画ネズミのレビュー・感想・評価

ダンケルク(2017年製作の映画)
3.5
向いている人:
①クリストファー・ノーランの作品が好きな人
②劇場に見に行く余裕がある人or自宅にプロジェクターか大画面テレビがある人
③「おれ、この戦場から帰ったら結婚するんだ」的な展開にウンザリしている人

 ノーランマラソン、とりあえずの最終章は、2017年公開の『ダンケルク』です。

 本作も、2017年にレビューを書いているのですが、今回の『テネット』公開直前に再上映が始まっていることもあり、『インセプション』と同じく、リブートしました!

 旧レビューにイイねをくださった皆様、誠に申し訳ございません。

 公開当時、私が住んでいる田舎にIMAXスクリーンなんてもちろんありませんので、レーザーIMAXを見たくてはるばる大阪まで足を延ばしました。

 1940年5月。フランスのダンケルク海岸で救出を待つ連合軍。救出に向かう小型船の船主ドーソンとその息子たち、そしてダンケルク海岸で空爆を浴びせるドイツ軍戦闘機を迎撃に向かうイギリス空軍パイロット・ファリアの3つの視点で、ダンケルク撤退作戦の顛末を描く。果たして、連合軍兵士たちは、迫りくるドイツ軍から逃れ、脱出することができるのか……。

 まず、この映画は、「劇場・大画面で見る」ことに特化した映画なので、パソコン、小型テレビ、タブレット、スマホで見ることは全くおススメできません。こんなご時世ですが、劇場の大画面で見てください。

 劇場で見るのと、タブレットとかで見るのとでは、印象が決定的に変わります。

 この後、実はいろいろ言うんですけど、この映画のイイところも、モヤっとするところも、すべて「劇場で見ることに特化している」ところから来るので、とりあえず劇場で見てみてください。

 本作が「陸」「海」「空」の3パートに分かれているので、『ダンケルク』で私が好きなところを、3パートに分けてお話ししようと思います。

①映っているものは、すべてホンモノ

 この映画の特徴は、まず、「写っている物が全てホンモノ」ということです。人が死んでいないことを除いては、ほぼ本当の戦争と同じという、恐るべき映画です。

 この映画の大部分を占める海岸のシーンを、実際にダンケルク海岸で撮影したり、
 トム・ハーディが操縦する戦闘機や敵の戦闘機は、実機を借りてきて、実際に飛ばして撮影していたり、
 船の実物大模型を作って実際に沈めていたり。

 つまり、撮影中カメラの前で展開されていた光景と、私たちが映画で見ている光景が同じということです。

 さすがにホンモノの迫力があります。空中戦はえらく単純なものになっていますが、今までの戦争映画にあった、『スター・ウォーズ』のパクリ的空中戦描写とは一線を画すリアルさがありますし、船が沈むシーンにはきちんと重みが加わっています。IMAXで見ると、画面を切っていないので、より大きな画面で見ることができて、すごく迫力がありました。

 この、ある意味「いきすぎたホンモノ志向」は、ノーラン監督ならではですね(もとをたどれば、『タイタニック』を実際に傾けたジェームズ・キャメロンあたりなのでしょうが)。

 そのおかげなのか、この映画は、最近の超大作の3分の1くらいの制作費です。

 この部分は、ハッキリ魅力だと思います。

 この本物の迫力は、IMAXで体感してこそ、ですので、大画面で見るのががおススメです!!

 『インターステラー』に続き、撮影監督ホイテ・ヴァン・ホイテマの半端なき手腕もあって、とにかく美しい映像が楽しめます。


②「人間ドラマ」がない

 以前『ハクソー・リッジ』をレビューしたときに、「『ハクソー・リッジ』の方がドラマ性があるので『ダンケルク』より好き」と書いたのですが、本作、人間ドラマがないです。

 「陸」パートでは、ワン・ダイレクションの人とか、『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』の主人公の人とか、ケネス・ブラナーとか出ているのですが、ほとんどそのキャラクターの背景は描かれず、目の前の状況に流されるばかりです。

 「海」パート、「空」パートでも同じです。マーク・ライランスやトム・ハーディ、キリアン・マーフィーといった演技派が出ているのに、登場人物の背景がほとんど描かれません。

 これは、「観客をダンケルク海岸の戦闘に叩き込む」ためにしていることだと思います。結果としてうまくいっていない部分もあるのですが💦 ここまで人間ドラマをそぎ落として、サスペンスに徹したところは、すごく実験的だし、これができるノーランはすごいと思いました。

 今までの戦争映画にあったような、焚火を囲んで「おれ、この戦場から生きて帰ったら、結婚するんだ」的な展開は一切ありません。


③音楽と音響がすごい!

 個人的に、ノーランの作品の1/3はハンス・ジマーの手柄だと思うのですが、今回も絶好調です。

 『インセプション』『インターステラー』と、毎回違う音楽を提供してくれますが、本作では、時計の秒針の音をそのまま音楽に乗せたような、不思議なメロディで、こちらの緊張感をあおってきます。

 さすが名匠というか、この映画に緊張感があるのは、音楽のおかげと言ってもいいです。

 エンディングでかかる感動的な音楽も、それまでのクールな音楽との対比で、より心に響きます。

 音響もすごいです。とくに、「陸」パートで、ドイツ軍の戦闘機が急降下爆撃を仕掛けてくるときの音が、本当に怖いです。これも、劇場で体感するのが一番ですね!


 ということで、ノーラン作品の中では「ドラマ」がないぶん混乱も少ないはずの本作ですが、『インセプション』『インターステラー』がよかっただけにモヤってしまう部分もないわけではないです。

 本作の特徴である、「3つの視点で進む」以外に、「視点ごとに時間軸が違う」という特徴もあって、それがあまりうまくいってなかったな……と思うし、人間ドラマを排除してサスペンスに徹した分、「この人に死んでほしくない」と感情移入できるキャラがひとりもいなかったな……というのもあります。

 それでも、ノーラン作品史上最短の1時間46分という上映時間、一秒も気を抜けないサスペンスが味わえるので、この季節、『テネット』の前に見ておくにはピッタリです。ぜひ、できるだけ大きな画面、良い音響で見てください!!

 ということで、ノーラン、キミならもっとやれるだろう! ちなみにトム・ハーディはカッコ良かったですよ!と付け加えて、レビューを終えたいと思います。

 ノーランマラソンもとりあえず完走、一応の締めくくりとさせていただきます。 

 『フォロウィング』『インソムニア』も良い評判も聞くので(インソムニアは昔見たことがあります。意外とイイですよ)、今回見れなかったのは本当に残念ですが、またおいおい見ていきます。

 お付き合いいただき、ありがとうございましたm( _ _ )m

 次回は、趣向を変えて、ずっと前にフォロワーさんからおススメいただいた韓国映画のレビューです。お楽しみに!!

<ノーランマラソン・コース状況>
※『フォロウィング』『インソムニア』は、入手できそうにないため、断念いたします……。

(往路)

1区:『バットマン ビギンズ』
https://filmarks.com/movies/22767/reviews/94317032

2区:『ダークナイト』
https://filmarks.com/movies/33832/reviews/95028419

3区:『ダークナイト ライジング』
https://filmarks.com/movies/37116/reviews/95708199

4区:『Doodlebug』
https://filmarks.com/movies/62974/reviews/95757292

5区:『メメント』
https://filmarks.com/movies/38380/reviews/95813494

(復路)

6区:『プレステージ』
https://filmarks.com/movies/25364/reviews/95868908

7区:『インセプション』
https://filmarks.com/movies/5603/reviews/32023206

8区:『インターステラー』
https://filmarks.com/movies/55572/reviews/96027985

9区:『ダンケルク』←いまココ。完走!
https://filmarks.com/movies/66158/reviews/48957071
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