Hally

シング・ストリート 未来へのうたのHallyのレビュー・感想・評価

4.8
"クソダメでも進むしかない"

爆音映画祭 in 新宿ピカデリーで再鑑賞したため再レビューします。爆音初上映って事でもうファンとしては見逃せない。前日の昼頃には売り切れていて、もう満席。最後にパラパラ拍手もでて最高でした。今までの映画人生で最も好きな作品の1つ。公開から1年以上たった今でもサントラ聴いてます。好きが溢れて止まらないので再びレビューさせて下さい。

コナーやブレンダンのように家族関係が最悪な家ではないが、人生が上手く行ってる自信なんてこれっぽっちもないし、自分の現状に誇りを持てた事などない。ふと振り返れば親が舗装した道に乗ってるだけな気がして。そんな自分が嫌で自らが敷いた道に乗りたくて、頑張ってみたものの、自らの甘さが首を絞めて。そんな逃げられない現実に壊されそうな時に音楽や映画に救いを求めた。私とコナーには共通点が沢山ある気がするんです。彼の苦しみや悲しみに勝手にシンパシーを感じてしまっている。しかしコナーは理不尽な現実に直面しても逃げず、自らの力に変えた。ラフィーナという現実を打破する希望を見つけたから。勝手にシンパシーを感じていた少年が私が目指したい青年へと成長していく。1つ歳の下の高校生としか見られていなかったコナーがいつしかラフィーナにとっても希望になった。しょせん夢は夢か。挫折を味わった彼女に希望を与えた。握れなかったハンドルを一緒に握り、踏めなかったアクセルを踏んだ。現実から抜け出すために自らの道に共に車を走らせた。"君の夢は、僕の夢になった"

私がこの映画で1番好きなシーンが「バック・トゥ・ザ・フューチャー」をオマージュしたプロムシーンだ。自分たちの奏でる音楽で抑圧されてきた校長やイジメられてきた者たちを熱狂させる。ラフィーナが幸せそうに踊り、彼を見つめる。両親2人が仲良くなり、彼の活躍を心から喜んでくれる。ブレンダンが以前のように戻って欲しい。そんな彼の願う理想が詰め込まれてる。しかしそれは理想であって、現実ではない。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でのプロムシーンは主人公マーティの父と母が結ばれたシーンだ。自らの消滅を逃れるため(書き換えられてしまった現実を元の現実に戻すため)のシーンだ。いってしまえば希望を生み出したシーンなのだ。オマージュ元を理解してみてみると切なさが何倍にも増すんです。

コナーが成長する過程で最も影響を受けた人物は兄のブレンダンだろう。長男の私にとって彼が人生の兄です。ブレンダンは大学も中退して、家にいる。ロックが大好きでコナーにロックを教えた人物だ。一見ダメ男にしか見えないが、彼が破綻した家族の中ではもっとも傷ついている。冷めきった家族、子供達に興味もない両親に苦しめられてきた。長男として密林を必死に切り開いて進んできた。立ちはだかる壁を越えようと、現実に立ち向かおうとして潰されてしまった。そんな自分に自分が1番許せない。しかしそんな彼の経験がコナーにとっての道しるべになったのだ。"俺みたいに人生から逃げる気か"いままでコナーの進んできた道はいわばブレンダンの切り開いた道だ。しかしこれからはブレンダンが切り開けなかった道をコナーが切り開こうとする。ブレンダンがコナーに託したのだ。あのラストのガッツポーズは彼の心からのガッツポーズでこの先の彼の希望だと思う。

現実は残酷だ。何が正解かなんてわからない。答えなんて教えてくれない。過去を振り返ると、自らの過ちが積み上がってる。ブレンダンはコナーに"ロックには覚悟がいる" "冷笑されても貫け"と言った。これは人生にも言えることなのではないか。自分の道を進むとなれば危険だ。笑う奴らがいるだろう。そんな奴らを無視して、それを力に変えることができるか。自らにとっての希望や道しるべを見つけてそれを頼りに死にものぐるい手探りで生きていく。戻ることなんて出来ない。進むしかないんだ。未来を目指して。

この作品が私にとっての道しるべだと信じて進み続ける。未来を選んでやる。ありがとう。ジョン・カーニー。
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