ninjiro

パターソンのninjiroのレビュー・感想・評価

パターソン(2016年製作の映画)
4.1
どんな酒だって酔えるのに、決まって同じ酒を飲んで一日を終える。
今日を無事に終えられるように、朝ベッドに横たわる身体にキスを。

今、ここにあるもの。今、そこに横たわるもの。昨日のことを忘れるなとばかりに、小さな昨日あるべき筈だった自分を余韻としてのこしながら、確固たるものを自分とは全く関わりもない他に託して、その言葉は毎朝毎日塗り替えられて、こころもまた、それに煽られるようにここにあらず。

人が話す言葉、起き抜けに呟く平安の言葉は昼間まで頭に響いて、望まざる出会いに閃く飾る余地なき言葉、週末には帰るよ、このあいだのあの娘とは、忘れてたんじゃないよ、あんたにはもう愛想が尽きた、ミミズクの餌って、ニュースなんて信用できないよ、なんかここ、変な匂いしない?

俺は双子の片割れだったって言い張る奴がいたけど、本当のことはわからねえ。それが過去形だってことが気に入らないのか、聴いた奴誰もが相槌と愛想笑いで、自分の目の前のグラスを見つめてたよ。何がその中に入ってるのか、じっと確かめるように、どうせいつもと同じ酒だってのにな。

今ここにあるもの、変わらないことの喜び。
例えようのない当たり前のこの匂い。整然と並べられた皿にも、読みかけのままいつまでも伏せられた本にも、オーブンレンジの蓋の角についた小さな汚れにも。起き抜けの光、平安の音、逆さにしたビールケースに腰掛けて、ふっと煙草の煙を吐けば。

どんな酒だって酔えるけど、日曜の夜はいつもの酒を飲んで終える。
くだらない映画を観た後、なんでもない話をして終わるのもいいさ。

一杯おくれ。おはよう。
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