岩嵜修平

ゴッホ~最期の手紙~の岩嵜修平のレビュー・感想・評価

ゴッホ~最期の手紙~(2017年製作の映画)
3.7
ゴッホ 最期の手紙(字幕版)

作り手の狂気に驚愕し、想像を拡張する絵画という手法に感嘆する

これは最初で最後の「絵画映画」ではなかろうか。

絵画と映画が共に好きな人であれば、誰もが思いつくであろう「絵画で映画をつくる」ということ。

宮崎駿などがつくる手描きアニメについては一種、近しい側面があるが、あれは「動画を描いて表現するための手段」であって、絵画自体が目的ではないだろう。

しかし、この作品は「絵画で映画をつくる」ということ自体が目的の1つになっている。

ゴッホが弟テオに書いた最後の手紙での一節「我々は自分たちの絵に語らせることしかできないのだ」。

そう語ったゴッホへの敬意から「絵画で映画をつくる」ことに挑戦したという監督・プロデューサーの狂気。

オーディションで選ばれたゴッホのタッチを表現できる125名の画家による、なんと62450枚の油彩画の映像化。

誰もが想像できるが、実現の難しさを加えて想像するに誰も手を出せなかった領域に挑戦したのは監督自身が芸術家としての側面を持つことも理由の1つだろう。

その手法への挑戦だけで映像好きとしては100点を捧げたくなるのだが、この作品、物語自体も面白い。

ゴッホ自殺の謎を、彼が残した手紙や彼が人生最期に過ごした地の人々の話を元に解き明かしていく。

謎を解く主役たる郵便局長の息子はフィクション(郵便局長自体の絵はある)だが、その他の人物はほぼゴッホ自身の絵や手紙の中に登場する人々。

元の有名絵画と、その人物を演じる俳優とを融合した絵の連続で、物語は綴られていく。

その展開自体は地味ながらも、現実シーンと回想シーンの描き分けや、役者の見事な演技(シアーシャ・ローナン以外ほとんど知らない方ばかりだが、みんな上手い)もあって飽きずに見られる。

そして、その終わらせ方も素晴らしい。原題の『LOVING VINCENT.』の通り、彼自身への愛に溢れた描き方。

映画館の大画面で細かいところまで目を配る価値がある作品だと思うので、是非、劇場にて。
岩嵜修平

岩嵜修平