しゃにむ

ザ・コンサルタントのしゃにむのレビュー・感想・評価

ザ・コンサルタント(2016年製作の映画)
3.5
「眼鏡には目が無ぇのです」

目 ガ 死 ン 化

↓あらすじ
昼は堅物会計士、夜はプロの殺し屋、その男は裏社会の大物の側で度々目撃され「あの会計士」と呼ばれる謎の人物。目覚ましく成長するロボット会社に雇われて過去15年分の帳簿を入念にチェックし、社長が株価を不正に吊り上げていた事実を発見する。不正がバレて副社長が不可解な自殺、会計士は会社を追い出され、命を狙われる事になり…

・感想
スーパーマンにボコられた衝撃で目から生気が抜け落ちたベンアフレックが「目は口ほどにものを言う」という常識に叛旗を翻し「目は口ほどものを言わない」死人の目で演じている変なおじさん活劇である。傑作と凡作の狭間にある微妙な作品…というのも主人公の造形が非常にデリケート、良く言えば丁寧、悪く言えばクドい。今作は①生来のハンデを克服して前向きな物語、②ハンデに挫けず逞しく生きて欲しい愛情からスパルタ教育を施す親心の物語、③企業のインモー(陰謀)に巻き込まれるサスペンス物語、④人付き合いが苦手な男のぎこちない恋模様、⑤生き別れの兄弟の数奇な再開…二重どころか五重の含みのあり、ごった煮感がある。どれも丁寧に描かれるから非難するわけではないが、描写を程々スマートに押さえておけば、途中で中だるみする事なく観られてスッキリするのではないか?少し残念な佳作である。帳簿とにらめっこするくだりは数字に目が回るし、途中途中で入る過去の回想シーンの所為で集中力が途切れて展開が分かりにくかった。作りが丁寧だから注意深く鑑賞するのが良い。

・注意点
今作の売り方を間に受けると「普段は生真面目な会計士が裏でドンパチやらかすギャップ爽快活劇!」と期待し得るが、期待値は低めにした方がいい。アクションシーンは割合で言えば30%も有るか無いかで、物語の大半は会話劇、或いは死んだ目のベンアフの独壇場だから肩透かし間違いなしである。

・変なおじさん
何が面白いってベンアフの怪演である。普段からこんな感じなのか分からないが(素だとしたら逆に怖い)喜怒哀楽感情スイッチがぶっ壊れている。終始無表情で淡々と仕事、淡々と殺人をこなす。ロマンスを感じさせる時は僅かに笑顔(医科学的には広角の痙攣)を見せるが基本無表情。とんでもない堅物だなぁと思ったらベンアフの術中に陥っている。今作は表と裏の顔を持つダークヒーローが巨悪の陰謀に立ち向かう単純な構図では無い。先にも述べたが5つの側面がある。会計士が変なおじさんに見える理由は彼のハンデにある。神経発達障害と闘っている。人付き合いが下手で無愛想になるのも仕方ない。冒頭の少年時代のシーンを見ると、彼が如何に努力したのかが分かる。途中途中挿入される父のスパルタ教育シーン、武術の訓練、いじめっ子への報復は子供に酷じゃないかとも感じたが親心というやつだろう。ハンデに負けないで世間で人並みに幸せに生きて行けるように…父親の強い願いだと思う。父親の精一杯の愛情を一身に受けて成長し、世間と堂々と向き合う現在があるのだと思うと涙がそそられる。父親から授けられた力を悪事に使うのは残念な気もしたが、ブラックマネーの使い道を知ると印象が180度変わる。何とも憎い。企業の陰謀に巻き込まれた無関係な女性を助けるくだりにしてもギャップが面白い。決して砕けた関係になることはないのに至れり尽くせりヒーロー役をきちんと演じている。後日談もまた小憎い付け足し。ラストの展開は観た直後は投げやりな感じがしてムッとしたが時間を空けて思い出すと悪くはない。主人公のギャップが更に増して面白い。最後に明かされる美声オペレーターの正体に優しい充足感に包まれた。この男は曲者である。ストーリー自体の完成度はイマイチであるがこの男の不思議な魅力はピカイチかもしれない。
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