りっく

冷たい熱帯魚のりっくのレビュー・感想・評価

冷たい熱帯魚(2010年製作の映画)
5.0
人間は二面性を持った生き物だと思う。それは“本音”と“建前”、“本性”と“理性”といったものである。村田は極端に、それらの後者を嫌う人間だ。見栄や偽善や虚飾と言ったものをぶっ壊して、その内側に隠れている本来の“人間性”を呼び覚まそうと企てている。だから、文字通り相手を引っ叩きまくって、外側から内面を守る邪魔なカベを崩壊させようとする。あるいは、相手の欲望を挑発し、内面を引きずり出そうとする。

けれど、そんな村田は決して気が狂っているようには見えない。むしろ、自分の中に一本しっかりした筋が通っていて、それに従って生きているように見える。その自分なりのルールのようなものは、世間一般の常識や倫理に照らせば、決して許されないことは明白である。

だが、そんなことは明らかであるにもかかわらず、何の悪気も見せない。だからこそ恐ろしい。悪ノリしたようにも見えるテンションで、あまりにも手際よく、そしてあまりにも日常化された殺人。そんな中に不器用で弱々しい人間である社本も、あっという間に取り込まれてしまう。人間を観察し、その弱みに付け込んでいくしたたかさ。そんな姿に、可笑しさと恐ろしさと同時に、図らずも“人間性”をも感じてしまう。それは彼が本作で1番、自分に正直に生きているからだろう。

村田は社本にこうも言い放つ。「おめぇの言う地球は、青くて丸くてツルツルした星のことか?オレの言う地球はゴツゴツしたただの岩だ!」。自分の中の“ゴツゴツした岩”をこれでもかというほど剥き出しにする村田。そんな彼の姿は、いい子ぶったり、猫を被って生きているような我々に強烈なメッセージを叩きつける。村田の本性が暴かれた後の、彼の小芝居ともいえる立ち振る舞いには思わず笑いが出てしまう。しかし、そのような小芝居を演じて生きているのは我々も同じではないのか。そんな生き方で果たして幸せだと言えるのだろうか。
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