黒川

冷たい熱帯魚の黒川のレビュー・感想・評価

冷たい熱帯魚(2010年製作の映画)
3.8
でんでんが怖すぎて今日は眠れないかもしれない。観たのを結構本気で後悔した。田舎の中小企業の社長はガチでこんな人ばっかでリアルすぎる。うちの親父を見ているみたいで途中胃が痛かった。こんなに精神が削られて食欲も感情も何もかもなくなる映画初めてだ。

実際にあった事件が元になっているそうだ、が事件については知らない。同じような映画に「凶悪」があるが、あちらはもっと視点や時間が前後する編集がしてあるので映画として観ることができた。本作は時系列に淡々と物語が進み、社本を追体験する形になっている。そのため物凄く消耗する。

熱帯魚屋を営む社本の一人娘がスーパーで万引きした。その仲裁に入ったのが大きな熱帯魚店を営む村本だった。彼が社本の娘の更生のためにも彼の店で働くことを勧めてきた。警察へ届けるのを止めてくれた恩人でもあり、無碍にすることもできず社本はその申し出を了承する。
村本の正体は連続殺人鬼だった。1000万の熱帯魚の養殖を持ちかけ、その相手から金を騙し取り殺しては、死体を山奥の家で解体して「透明に」していた。また社本のように弱みにつけ込まれた人を右腕にして、用が済めば彼らも家族ごと殺していたのである。

実際の事件を元にしてあるということで、妙なリアリティがある。というかこれは演者のおかげの部分が多い。ダークサイド勢の演技が特に素晴らしい。でんでんの滑舌の悪さがガチの田舎のおっさん(というか彼と出身地が同じなこともあり、標準語で演技しているがこういう話し方のおっさん居るという生々しさがある)なので、もうあれだけで相当怖い。彼の開演が凄まじい。「凶悪」のリリー・フランキーとピエール瀧もヤバかったけどでんでんはガチ。怖すぎた。
村本にも悲しい過去があるようだが、それが免罪符になるわけがない。羽振りの良い生活をしていたが、それはビジネスでの成功ではなく実際は詐欺と殺人が彼の「成功」だった。神の裁きに合うという看板とかキリストが屋根で磔刑になっている村本の父が建てた家は、誰でも救済するという神のアガペーを示唆するのだろうか。だが救済はそこにはない。最終的にあの展開だ。
本作のジャケットはペキンパーの「藁の犬」へのオマージュがあるのだろうか。暴力に暴力で反撃するアメリカから妻の実家のイギリスの田舎へと引っ越してきた数学者の物語だ。暴力に屈したことで暴力に暴力を返す術を見出した社本であったが、諸刃の剣で彼自身も精神をおかしくしてしまう。生きることは痛いと彼は娘に言った。痛みを産むのは暴力だ。生きることは他者への加害なのだろうか。

そして女性の強さに恐れ慄く映画でもあった。いや園子温映画に欠かせないのがこの強い女なので、多分これは監督要素なんだけど。裏切ったり、男の強さを見せれば付いてきたり、一途に手助けしてくれたり。なんかもう全部が怖くなった。もうやだ。
黒川

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