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ファウンドのblacknessfallのレビュー・感想・評価

ファウンド(2012年製作の映画)
3.9
鑑賞が配信メインに移行してから再鑑賞が増えてるんだよな、積極的にそうしたいわけじゃなくて検索してて昔観たのが出てくると、懐かしさやオチだけ思い出せず、もう一度観るか、てノリでつい観てしまう。

これもそんなノリで再見した。

「兄のバッグには生首入っている」「そして、それは数日おきに切り替わる」
バッグの中の生首を手に取るマーティー。
オープニングにある、このシーンが身震いするほど不気味で不穏なムードに満ちてかっこよかった。

マーティーは12歳の少年(あらすじでは11歳とあったが劇中では12歳と言ってた)、内向的な性格で友達はほぼいないいじめられっ子、両親はそんな彼のことをまるで理解してくれない。
マーティーの唯一の理解者は兄のスティーブだけ。マーティーが好きなホラー映画(ヘルレイザーとかあの辺のホラー)を一緒に楽しんでくれ、マーティーの悩みに真摯に耳を傾けてくれる。

しかし、そんな兄がシリアルキラーだと知ってしまう。ここから普通ならヒッチコック的なサスペンスになるんだけど、本作はそのことよりもマーティーの孤独と苦悩にスポット当てられる。このお兄ちゃんがシリアルキラーじゃなかったら『大人はわかってくれない』みたいな不遇な少年の映画なんだよ。
親や社会の無関心がいかに子供の心を荒廃させるかを見せていくシリアスなやつ的な。

兄のスティーブも人の首を切り取ることに性的興奮を感じる快楽殺人系のシリアルキラーだから、おそらく孤独なんだと思うんだよね(劇中スティーブの友達は出てこない)、だから自分の分身のように弟を想い愛している。
この世界で信じられるのは俺達兄弟二人だけだと思ってるように見えた。
元々そんな距離感だから、スティーブがマーティーを虐める子供を殺したことで2人の絆はより強くなる。
「殺してくれてありがとう」とマーティーがスティーブに感涙して抱きつき抱擁し合う兄弟を美しく撮っていて、背徳と美徳が交差する耽美でいいシーンだった笑
これを機に今まで諦観し、やられるだけだったマーティーにスティーブの狂気が憑依し、いじめっ子が流血する激しい暴力をふるい、抑圧するだけで気持ち汲んでくれない母に反発するようになる。
この流れも明らかに心が荒廃してるんだけど、それ以上にマーティーの周囲の人間達の悪辣さや偽善性を強調してるから、マーティーの暴力と反抗にシンパシーを感じるように演出してる。非常に巧みだと思った。

本作が異形なのは社会や家庭に居場所のない兄弟の愛と絆を見せながら、その兄の異常性も存分にアピールしてるところで、どう捉えていいのかわからなくなるバランスなんだよ。
この映画で圧倒的に悪はこのスティーブなんだけど、弟の目線から見ると自分とスティーブにまるで理解しょうとせず紋切り型の価値を押し付ける両親であったり、その両親に無理に通わされた協会、そして、自分を虐める同級生の方が悪なんだよ。スティーブは常にマーティーを思って行動しているから。
ベタだけどスティーブに人間存在の矛盾や多面性を感じた。


シリアルキラーが弟想いてのはムリがある的な感想を見たけど、そんなことはないと思う。変態快楽殺人の代名詞であるペーター・キュルテンなんてとても愛妻家だったし。振り幅が大きいから奇異に思うけど、おれらも何かを慈しんでいながら、何かを好んで傷つけたりしてる。

色々な企みとメッセージを内包したカオティックでファナティックでシニカルで色んな思考や感情を喚起する怪作だと思う。再見しても圧倒される。
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