緋里阿純

インディ・ジョーンズと運命のダイヤルの緋里阿純のレビュー・感想・評価

3.6
ハリソン・フォード主演の大人気作『インディ・ジョーンズ』シリーズの最新・最終作。御年80歳のハリソンが、半世紀以上続いたシリーズの主人公最後の冒険を演じる。

先に結論を述べておくと、80歳になっても、こうしてアクション映画に出演するハリソン・フォードの役者魂の凄まじさにはただただ拍手。

そもそも、本シリーズは、81年の『失われたアーク≪聖櫃≫』を皮切りに、80年代冒険アクションらしい荒唐無稽なストーリーとアクションが観客にウケて来たが、89年の『最後の聖戦』以降は長らく新作が制作される事はなく、19年後の2008年に『クリスタルスカルの王国』にて突然の復活を果たした。個人的には、オリジナル作品を打ち出せずネタ切れに陥っていたスタジオが、過去の人気作品を復活させ、世代交代による新シリーズのスタートを目論んでのものだったのではないかと思う。同じく80年代の人気シリーズ『ダイ・ハード』も近い時期に似たような試みを行っていただけに。

この『クリスタルスカルの王国』によって、インディの実の息子として、当時人気絶頂の若手俳優だったシャイア・ラブーフが起用されたが、興行的成功はともかく、賛否両論のストーリーやシャイア自身の作品や監督への批判的な姿勢もあって、世代交代による新シリーズ化は実現しなかった。

そんな事もあって、シリーズとしては世代交代に失敗したまま音沙汰無しという状態。ハリソンが当時既に65歳だっただけに、最早新作はないと思っていた。それが、15年経ってまさかの復活。そして完結。正直、ハリソンの年齢を考えると、あまりにも無茶な企画なのではないかと思い、あまり期待はしていなかった。

だが、第二次世界大戦下でのナチスとの列車での攻防を描いたオープニングの掴みの良さでその心配は杞憂に終わる。CG処理で若返ったインディの勇姿は、まさに80年代のシリーズを彷彿とさせた。今回のキーアイテムとなるアルキメデスのダイヤルの紹介も自然だ。

時は経ち、表の顔である大学教授としての現在のインディが映し出される。妻とは協議別居中で、アパートに一人暮らし。後に判明する息子マットの消息もこの時点では不明。世間はアポロの月面着陸のニュースで持ちきりで、インディの授業を熱心に聞く学生はなく、そのまま定年退職。この一連のシーンが、何とも現代的で世知辛い。

共にナチスと戦った相棒バジルの娘ヘレナの登場から、一気にナチスの残党とのダイヤルを巡るインディ最後の冒険の幕が開くー。

と、掴みの部分は素直に楽しめた。それ以降は、懐かしの80年代冒険アクションの再現とも言えるコミカル要素を散りばめたドタバタ劇や謎解きが展開され、良くも悪くも“普通”のアクション映画の域は出ない。とはいえ、このシリーズのファンが求めているのは、そういった懐かしさ溢れる冒険アクションなのかもしれないので、そういった意味では、ファンに寄り添った作品とも言える。

敵役にマッツ・ミケルセンを起用し、序盤こそ冷酷な黒幕臭をプンプン漂わせていたものの、次第に小物化していく様子は、それをマッツが演じているとなると良く言えば新鮮、悪く言えば肩透かしといったところ。敵がイマイチ迫力やカリスマ性に欠けるというのは、このシリーズの一種のお約束でもあるとは思うが…。『魔宮の伝説』以外の敵キャラって、全然印象に残ってないんだが、私だけだろうか?

ところで、インディの息子マットがベトナム戦争で戦死していた扱いというのはどうなのだろう?勿論、今更シャイアが出演してくれるとも思えないし、息子を失った痛みと、そこから生じた夫婦間の溝が、クライマックスでのインディの選択にも繋がっていくので、無駄な設定ではないのだが。

どうかと言えば、賛否両論あるクライマックスでのインディの選択だ。アルキメデスの策略により、ダイヤルによって古代ギリシャにやって来たインディは、今更現代に戻っても自分の居場所は無いからと、過去に残る事を熱望する。結果的にヘレナの手によって無理矢理連れ戻されるが、恐らく賛否が分かれる要因は、インディが自らの意思で現代で生きる選択をしなかった点についてだろう。
ヘレナの粋な計らいによってマリオンとの再会を果たした事で、何となく良い話風に締められはするが、このあたりのフワフワとした雰囲気が今一つ納得がいかないのだろう。
出来れば、インディに何か一つでも現代を生きようとする要素があれば良かったのだろうが。

着地の仕方には疑問も残るが、冒頭でも述べたように、正に体に鞭打ってインディ最後の冒険を演じ切ったハリソンの役者魂と、懐かしの80年代冒険アクションを現代技術で再現した点、何より宙ぶらりんな状態だったシリーズにきちんと幕を下ろした点は評価したい。本当にお疲れ様でした。
緋里阿純

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