ゆず

皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグのゆずのレビュー・感想・評価

3.9
「スーパーヒーロー」はイタリア語で“Supereroe”。発音は「スーパーエロい」に聞こえる。

イタリア発のアダルトヒーロー。
グロありエロありの内容で、キッズと一緒に見るヒーロー映画ではない。大人のためのヒーロー映画。
実際、作風も娯楽映画というよりは現代の閉塞感を切り取ったヒューマン・ドラマという感じで、派手な演出はなく、静かに心に迫ってくる。
主人公エンツォが手に入れた力は、ただ怪力で身体が頑丈というだけで、空を飛べるわけでも、目にも留まらぬ速さで動けるわけでもない。彼のヒーロースーツはくたびれたパーカーだし、スーパーヒーロー着地をかっこよくキメることもできない。何か衝撃を受ける度に意識が朦朧としてしまう。
だが、そこに「生身の人間」を見ることができる。

エンツォがケチなコソ泥だという設定や、当初はそのパワーを悪用してしまうことも「生身の人間」らしさの象徴だと思う。
軽い知的障害が疑われる女性に対して欲情してしまうこともそのひとつだろう。(「スーパーエロい」なので当然といえば当然だが)
しかしここで描かれる主人公とヒロインの関係性は、他のヒーロー映画が描くような美しい愛の姿ではない。アニメのヒーロー「鋼鉄ジーグ」の存在を信じている心を病んだ女と、その女に一時の慰めを求める情けない男。
生々しさという点では群を抜いている。そしてあまり美しいとはいえない。
だが、そういった醜さの描写があるからこそ、「スーパークリミナル」エンツォが正義に覚醒し「スーパーヒーロー」となる展開が胸熱なんだと思う。

またこの映画、他のヒーロー映画とは違う意味で悪役が良い。
地元を牛耳るだけの弱小ギャングといった風で、親ギャングに虐げられていたり、反抗してみたり、ケツに火がついたりといいことがない。これもとても閉塞感があると思う。
ボス・ジンガロとその仲間たち。前半ではみんな仲良く車中で歌ったりとか楽しそうだったのだが、ジンガロはどんどん破滅の道を辿っていく。
エンツォが目覚め再生するヒーロー誕生の物語の裏で、ジンガロは追い詰められ、失い、ヴィランとして生まれ変わる。
ジンガロは自業自得のクズだけれど、そこにも注力しているのが良いと思った。


7/12 皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ 字幕 @チネ・ラヴィータ
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