雨丘もびり

ドラゴン・タトゥーの女の雨丘もびりのレビュー・感想・評価

ドラゴン・タトゥーの女(2011年製作の映画)
4.7
【他人が信頼を育み、互いに救いをもたらす】
血縁者同士の惨忍醜悪な関係と対比され、その絆はより一層美しく光る。
透き通って切れないフロスみたい。

深く、巧みな会話劇。
字幕の語感が合わなくて日本語版で観た。
人物たちの労わりやトゲ、言葉のウラまで豊かに伝えてくれてGreat.
「Here,you should eat that.」は、「食えよ(字幕)」よりも「さ、これ食べて(吹替)」ってすすめるほうが合ってる。
吹替翻訳:徐 賀世子/演出:安江 誠

ミカエルがリズベットの部屋を初めて訪ねるシーンほんと素晴らしい。
リズベットに多少警戒されても本性を明かし、腹と信頼を見せ、コトを進めようとするミカエルの話運びに痺れる(ダニエル=クレイグすごい!)。
イスの背を前にして"壁"つくって座るリズベットが、きら、と目の色を変えてミカエルにすり寄る仕草もぞくっとくる魅力。
敵対者から共闘関係へ。
資料を椅子にザツにほっぽるとこまで含めて、完ッ璧よねw。
いやー、参りました。ユーモラスで目が離せない。

"映画の都合"をまったく感じさせずにドラマにのめり込めるスリルと快感。
あんなに偏執的に作り込まれた"美しい画"なのに、自然と惹き込まれるのは何故だろう。キューブリックやターセムシン作品のような、美学や自意識の自慢を感じない。
無駄を刈り込む編集センスと、キャラクタの心情描写におそろしく俊敏だからかな。口角を緩ませる一瞬さえ撮り逃さないものね。

.....階段降りる1カットだけで35回も撮ったんかー!
回を増やしてもダレないフィンチャー組のバイタリティは奇跡だと思う。
そのルーティンの中で役者たちがアイデアを試し、監督が制御し、相乗効果のなかで豊かな人間ドラマを醸造してゆく過程が素晴らしいです。

【ルーニー=マーラが創るリズベットの魅力】
乾麺を水に浸してレンジにぶち込むの恐れ入りました(^^;)絶対おいしくない。カッコイイ。
歩き方からスゴい。急いでるのでも威圧してるのでもなく、ごく自然に機敏でしなやかな人なんだってわかる。
俯いた面持ちが美を越えてる(鼻血)
眉を抜いてるのかと思ったら脱色。無機質さを出し過ぎず、狼のような気高さと率直さをまとって立つ。
男の人の、弱気で饒舌になる習性がキライなとこ、カワイイw。
機械的、合理的なキャラクタじゃない、もっと奥深い人格造形を感じさせる素晴らしい仕事。


【原作とのバランスに苦慮してる?】
ストーリーは正直、忌まわしい一族の物語か、汚職摘発の物語か、どっちかで良かったと思う(^^;)。

とりわけスウェーデンの方々が大切にしてる小説とのことで、持ち味を損なわぬよう注意深く映画化した様子が見られます。

その分、ミステリとしては冗長に感じられてしまい、ナチス残党とか聖書になぞらえた殺人とか、重要でないのに捨てきれませんでしたという要素が目についてしまった。
スウェーデンの事情を良く知らない私にとっては、ストーリーに組み込んで考えられなかったというだけ。あんなに一族わんさか出されたから、一人ずつ頑張って覚えたのに、ぜんぜん物語に絡んでこないというか。
.....そこが璧に傷。

あと、革ジャン贈るのはいらない気がする。
つとめを果たし、パンって離れる、でも仲間。
その方が、カッコいい。

でも、こんなに他人の心情をくみ取れるんだって、観客に気付かせてくれるステキな時間。
キツい場面も多かったけど、また何度も観たい映画。
「人間は相手を不快にさせる苦痛を優先させ、自分の肉体的苦痛を省みない」みたいな台詞は至言。そして善き反省。
エンヤよく許可出したなぁ(◎-◎;)