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エル ELLEのpanpieのネタバレレビュー・内容・結末

エル ELLE(2016年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

予告からもう分かってしまった気になっていましたが観てみたら全く違った!
「ゴッホ展」を一緒に見た友人が帰るというので微妙に時間がありこのまま帰るには勿体無いと映画の時間を探していたらぴったりだったので観に行ってきました。



オープニングはいきなり音の暴力から始まった。
暴力を振るわれているかの様な殴っている音や悲鳴。
ここに映像はなく観ている者に音だけで聞かせる不安と恐怖。
何が起こったのか想像させてからやっと映像が流れ破られた服を整えてフラフラと立ち上がる女性。
おそらくレイプされたのだろうが事の後割れた食器を片付けたりと彼女の取る行動の冷静さに驚かされる。
破れた黒の素敵なワンピースを脱ぎゴミ箱へ捨てて彼女はバスルームへ。
その後外国御用達の憧れの泡立つ入浴剤入りのバスタブに浸かっている彼女のあの部分の泡が赤く染まっている。
そしてようやくレイプの映像が彼女の思い出しているシーンとして映し出される。

観客はまたもあの不快な音を聞くだけでなく今度は映像付きで観せられる事になる。
飼っている猫が庭先から泣くので入れようと外から入れる大きなガラス張りの窓を開けると突然黒づくめで覆面をした男が現れ慌てて窓を閉めようとすると男の両手がそれを掴む。
男を殴り身を翻して逃げようとするミシェルを捕まえ殴って押し倒しその拍子にテーブルに並べられていた食器がミシェルが倒れて掴んだテーブルクロスごと床へ落ちて割れる。
ミシェルは抵抗するが何度も殴られ失神してしまい眼が覚めると男は消えていた…
オープニングから激しく衝撃的で女性としてとても嫌な気分を味わう。
不快感に観ていて思わず顔が歪む。

ところが今作はこの事件だけを取りあげている訳ではない事が後々分かりもっと衝撃的だった!

ミシェルが10歳の時に父親が起こした事件から警察でさえも勿論誰一人信用できなくなってしまった事の現れか他人を頼らず自分で犯人を探そうとする。
誰も信用できない。
確かに過去に起こった出来事やこんなシチュエーションなら彼女の取る行動に納得出来た。
どうやらミシェルの身近な人間が犯人の様なのだ。
どの男も本当に怪しく見える。
監督上手いなぁ!

ミシェルはゲーム会社のCEOで住んでいる家も素敵で高級住宅街だ。
若い女に走った夫とは離婚し一人息子がいるがやっと仕事が決まり綺麗だが派手な外見の息子の彼女は既に妊娠中である。
結婚しているか分からないが同棲する新居の頭金をどうやらミシェルをあてにしている様に思われ既に尻に敷かれている息子にミシェルはイライラしている。

産まれた子供を見た途端息子の子供ではないと確信するが息子は信じず観ていてそれが信じられなかった。
頭が悪いのか眼が極端に悪いのか彼女が自分を裏切っている事を直視出来ないのか、子供の肌の色が違うのに彼が理解出来なかった。
同僚で親友のアンナが確か子供を亡くしただかで彼女の母乳で育てられたという所があったと思いますが(時間が経ってしまって忘れてしまいました。(;_;))それにもびっくりしてしまった。
他人を信用しないのは分かるけど自分の息子にも距離を感じているミシェル。
親友の夫とも関係を持っていてそれをアンナに隠して関係を続けている。
でもアンナはもう夫に女がいる事に気付いていてミシェルに相談するのだ。
ミシェルにはそろそろ潮時と分かっていてもう終わりにしたいが男の方はまだ続けたい。
今度こそ最後と言いつつズルズルと続いている。
よくある関係だ。
ミシェルを取り巻く周りの人間関係が密接過ぎて複雑でそこもまた面白いのだが彼女の性癖がやっぱりおかしいのかも。
あれだけ年齢を重ねてもあんなに性に対して奔放なのにはいささか引いてしまう。
フランス人的には普通?
ミシェルは仕事上でもやり手で成功しており自立していてお金持ちで美しいと来たら男が放っておかないのだろう。
だから犯人が分かった件は本当にびっくりした。
え!いい感じに何度もなっているのに拒んでいた彼が犯人だったなんて!
さぁどうする?
でも今作はこれでもまだ終わらない。笑
ミシェルに全く共感は出来なかった。
でもミシェルの複雑な幼少期を思うと何故だか腑に落ちる。
父親の事件は彼女に影をもたらしそれがまた彼女の魅力を皮肉にも増しその匂いを嗅ぎつけて集まる男達。
母親もいい年をして若い男に夢中だし父親が事件を起こしてからは頼れるまともな大人もなくミシェルは一人で奮闘してここまで築いて来たのだろう。
とても長い間一人で戦って来たのだ。
その背景がある事にとても納得出来た。

とはいえ酷く風の強かったあの日雨戸を閉めるのを手伝ってくれた彼とかなり妖しい雰囲気になるシチュエーションにはなかなか素敵でグッときた。
でもタイプだった彼があの時のレイプ犯と分かったら私ならどうしただろう。
衝撃を受けつつ受け入れるだろうか?
レイプ犯を受け入れた時点でそれはレイプではなくなるのだろうか。
考えた事がないので頭が混乱した。


ラストでの向かいの奥さんが引越しをする時にミシェルに「夫の事色々ありがとう」という様な事を言ったと思ったがそれは更に衝撃だった!
夫の性癖を分かっていながらミシェルの家に差し向けていたという事か!
それは犯罪なのでは?
鳥肌が立った!
許されることではないと思う。
彼女は敬虔なクリスチャンだったというのをミシェルの家でのクリスマスパーティーで描かれていたので信仰の理由がもしかしたら夫だったのかもしれないと思うととてもリアルで彼女の苦しみも分かった。
だからと言って向かいに住んでいるというだけで次なるターゲットにされたらたまったもんじゃない。
ミシェルも十分大人の女性で美しい女の一人暮らしというのはそういう男の標的になるのかもと思わせるイザベル・ユペールの年齢を超えた美しさに目を見張った。


なかなか複雑で重厚な作品だった。
観た後やや暫くミシェルに共感出来なくてなかなかレビュー出来なかったが時間と共にミシェルの生き様を思うと同情すら感じ自分がこんなシチュエーションだったなら誰かを頼りたいしそれをしないで強くないのに強がって生きて来た彼女に感情移入できる様になった。
今の男社会で女一人がむしゃらに生きて来たミシェルに敬意すら払いたい。
ポール・バーホーベン監督作品ならではの大人の世界を暫く振りに観せてもらった。
なかなか咀嚼に時間のかかる作品だった。
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