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マンチェスター・バイ・ザ・シーのkotchanのレビュー・感想・評価

5.0
亡くなった者との絆が深いほど悲しみも絶望的に深く、心に消えない傷を残す。傷の痛みは希望を剥ぎ取り、生きる気力をも奪う。心を閉ざすことは、この傷の痛みを心の奥に抑え込む代わりに、空虚な人生を歩むことを強いる。

親しい者が突然亡くなると意外と冷静なもので、現実を受け入れられなくて涙なんて流れない。
人間がひとり亡くなった後は忙しい。近親者への連絡、葬儀の手配と準備、遺産や養育についても考えなくてはいけない。悲しんでいる暇などないのが現実で、亡くなった直後に泣けるのは、不謹慎だけど恵まれているとさえ思う。
孤独や喪失感は後から突然やって来る。
ひとりになった時やふとした事で、心の中に勝手に作り上げた防波堤が突然決壊する。悲しみや寂しさが濁流のごとく心を襲い、自己防衛策は何もなく、感情が自分自身を破壊していく。壊れた人間のその後の人生は惨めなもので、再生の手段は希望を持つことのみ。
その希望さえも実は厄介で、自然と芽生えてくれない。心を閉ざした者には手に入れることができず、前に進もうとする心にしか宿らない。そして、誰かのために生きようとしなければ持つことが許されない、本当に面倒なヤツでもある。

人生という時間も前にしか流れない。
希望は未来にだけある。
前に進むしかない。
時には立ち止まってもいい。後ろを振り返ったっていい。
だけど、いつかは前に進もう。
ほんの少しずつでも‥‥
やり直せない人生なんてない。
再生できない心なんてない。
前に進もうとする意思を忘れてはいけない。
そんなことを思わされました。

キャスト全員が本当に素晴らしい。
中でもケイシー・アフレックとルーカス・ヘッジズの演技は見事で、2人の距離感も絶妙で印象深い。
台詞を極力排除し、会話の間や繊細な内面とその変化を丁寧に紡ぎ上げた、観る者の心に確かな足跡を残す。
ラストのケイシーとルーカスのバックショットは忘れられないだろうな。

今の自分には観ておくべき作品でした(๑˃̵ᴗ˂̵)
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