わたふぁ

マンチェスター・バイ・ザ・シーのわたふぁのレビュー・感想・評価

4.0
ケイシーが主演男優賞のオスカーを手にした!という嬉しいニュース付きで日本にやってきた作品。
話題性のあるレオ様やエディ様がいた前年度だったらわからなかったかもしれないが、今年度のノミネートの中で群を抜いて光り輝いていた。本当に素晴らしい演技力。タイミングも味方し、正当な評価を受けて、彼が栄光を手にしたことが嬉しかったです。

リーという酒グセの悪い男が、兄の死をきっかけに長年離れていた故郷に帰り、甥っ子の親代わりのような存在になっていくお話。寒々しい冬のマンチェスターを背景に、音楽も少なめで、シリアスな語り口で進みますが、自虐にも似たユーモアが刻み込まれていて笑っちゃう。最大のショックな場面で、担架が引っかかって救急車にぜんぜん乗らないとか。泣きながら、今ですか?とツッコミたくなる場面が時々ありました。

葬儀のシーン、リーは元妻と再会のハグをする。大切な人が若くして死んで、色々あった妻とも再会を果して、さぞかし感傷的になっていると思いきや、ハグしながら、あ〜ハイハイといった感じで白目むいてるんですね。現在の新しい夫が隣にいて強がるしかなかったんだということは後になれば想像できるんですが。本当にそういう細部の集積で「リアリティ」をうまく描いた作品だと思います。

悲しいことがあって、弱い立場の子供がいて、大人がどうにかするしかない。大きなうねりの中で、勢いにまかせたら過去のトラウマが乗り越えられるかも、なんてことは全くの綺麗事。
できないものはできないということ。無理に進まないこと。頑張ることで何もかもが崩壊してしまいそうだったから。
あくまで理性的に、前進するのではなく後退しない道を選んだ彼は、子供に対しても自分に対しても、とても真摯で思慮深い、冷静な判断ができる大人だった。