真田ピロシキ

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

3.9
極悪人面でセールストークをかます冒頭のマイケル・キートンを見た時から伝わるヤバイ奴感。シェイクは粉末製の紛い物でも極悪性は純度300%。酷い話が繰り広げられるのだろうと確信する。

先見性と志のある兄弟が始めたベンチャー企業がハゲタカのような野心家に目をつけられ、そのブランドを奪われる。その企業はマクドナルド。誰もが疑いようもなくアメリカの、世界を代表するトップ企業。それを飛躍させたレイは紛れもなくアメリカンドリームの象徴であると同時に追い出されたマクドナルド兄弟が負の部分を映し出す。サイレント映画風にユーモラスに表現されるマクドナルド兄弟の創業譚で終えられるのならどんなに心が安心出来たものか。マクドナルドはよくこの映画にOKを出したものだ。最早この程度の醜聞で揺らぎはしないという絶対的な自信の表れだろうか。

自身では革新的なアイデアを生み出せない、50代まで芽の出なかったセールスマンでありながら執念と覚悟をモットーに成り上がるレイは野心の怪物。欲望にも躊躇なし。ほとんど家を空けていて浮気していたことも知った上で新ビジネスに内助の功を尽くしていた妻に新しい女(人妻)が出来たから平然と離婚話を持ちかける姿は人間として欠けている。すぐに激昂するのを見るとこれまで堅気の仕事を続けられていたことが驚きだ。突然胸元から拳銃を取り出しても違和感ない。銀行に行ったシーンなんか強盗に入ったのかと思うくらいだ。そんな奴が追放したマクドナルド兄弟との紳士協定なんか守るわけないよね。絶対に紳士じゃないし。

そんな悪い奴の話であるのだが、サクセスストーリーとしては好意的に描かれているように見える。フランチャイズ化を始めた時のスピーチシーンには高揚感があり、少なくとも最初の内はマクドナルド兄弟のことを一応尊重して、金を出すだけのいい加減な出資者は願い下げして広く熱意のある人物に雇用を提供したりと金に汚いだけの人間ではない。欲望を肯定してエネルギッシュに描いた点では『ウルフ・オブ・ウォールストリート』に重なるものがあり。ただウルフオブは原作本のあとがきで翻訳者が「こいつただの大ボラ吹きじゃねーの?」と疑問を呈していたが、こっちは本物の成功者なのは絶対に間違いないので、それをその後も含めて映画側からの明確な否定はしないのには恐ろしい。エンドロールで今やハリウッドのハラスメント代名詞となったワインスタインの名前を堂々と見せられるのがまた…

マイケル・キートンと言えば私の世代ではバットマン。バットマンと言えばDCコミックで、スーパーマンの原作者コンビがDCに権利を奪われた挙句に飼い殺しにされ追放された話を本作のマクドナルド兄弟と重ね合わせてしまう。そうした連想も考慮してのキートン起用なのだろうか。今となってはキートンバットマンの異色さが鮮明になってくる。当時からして命を奪うことにはあまり躊躇がなかったが、歳を重ねたキートンバットマンなら余裕こいて笑ってるヒースジョーカーなど無表情で轢き殺しそうだし、スーパーマンには人間大サイズのクリプトナイトを頭上から落としてぶち殺すに違いない。執念と覚悟で天才を凌駕する常人という本作の人物像もバットマン的。つまりバットマンとしてはやっぱりハマり役だったのかな。ヴィラン寄りだけど。